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» 2015年11月09日 08時00分 UPDATE

池田直渡「週刊モータージャーナル」:トヨタは本気で変わろうとしているのかもしれない (1/4)

かつてトヨタを取材したときに担当者が発した忘れられない言葉がある。それから20年以上経った今、トヨタは大きく変わったと感じている。

[池田直渡,ITmedia]

 トヨタの取材で忘れられない言葉がある。6代目セリカ、T200型の事前発表資料をもらいに東京本社へ行ったときのことだ。

6代目のセリカ。ラリーでも活躍した 6代目のセリカ。ラリーでも活躍した(出典:Wikipedia

 30席ほどのブリーフィングルームで新型セリカの斜めフロントからのスタイルをスクリーンに映しながら、トヨタの説明員は言った。「このクラスのクルマにとって重要なのはスタイルです」。クルマのコンセプトの説明は普通そんなに簡単に済まない。こういうときは「流麗なスタイルと、クラスを超えた加速力、高次元なハンドリングと高い居住性を全て備えました」というような欲張りなことを言うものだ。

 ところが前述の発言の後、取材陣を一瞥(いちべつ)すると「まさかここにそれが分からない“レベルの低い人”は来てないですよね」と言いたげに、そのまま次の説明に入った。20年以上も前の話だからその後何の説明をしたかもう覚えていないが、その印象は強烈だった。

 普通はメーカー側がアレもコレもと八方美人なことを言うところを、意地の悪いメディア側が「そうは言っても結局スタイルで売れ行きが決まるんじゃないの」と皮肉を言う図式だ。ところがトヨタは、メーカー自らが冷徹な現実を当たり前のように言い放った。良くも悪くもこれがトヨタだと筆者は強烈に刷り込まれた。

トヨタの改革宣言

 トヨタは2015年3月26日、『トヨタ自動車、「もっといいクルマづくり」の取り組み状況を公表』(関連リンク)という1通のリリースを配信した。

 そこにはトヨタのクルマを良くするという宣言があった。もちろんプロダクトの出来だけを考えて製品を作るトヨタではない。「カイゼンとはコスト低減を伴わなくてはならない」とはトヨタ生産方式をまとめあげた大野耐一氏の名言だが、この新しい取り組みでも縦横に張り巡らされた生産の合理化とコストダウンがあるのは当然だ。それは世界一を賭けて戦う以上、当然のことなのだが、どうもその一連の発表に、「ハンドリング」「低重心」「スタイルの向上」など、今までのトヨタなら優先順位がもっと下がった場所にあるべき言葉が、等価に挙げられている様子を感じた。

 このトヨタの新たな取り組みの中核が「Toyota New Global Architecture」(TNGA)である(関連記事)。TNGAに基づくエンジンは既にいくつかがデビューしているが、クルマ一台をまるまるTNGAに則って作ったのは新型プリウスが初めてだ。

豊田創業家一族の御曹司でもある豊田章男社長。TNGAを成功させれば日本自動車史上に名前を残すことになるかもしれない 豊田創業家一族の御曹司でもある豊田章男社長。TNGAを成功させれば日本自動車史上に名前を残すことになるかもしれない

 筆者は東京モーターショーで、その新型プリウスを検分した。結果から言えば、トヨタの主張通り、ボンネットは下がっていたし、ペダルのオフセットは大きく改善されていた。シートとステアリングの位置関係も同様の改善が見られた。こう言っては何だが、トヨタは今までこういうところをあまり気にしないメーカーだった。いや、正確に言えば仕様を決めるのは主査の仕事なので、これまでのクルマは主査によって振れ幅が大きく、例えば、先代のヴィッツなどは国産車でこれは……と言いたくなるほどひどいオフセットがあった。少なくとも、そういうマン-マシン・インタフェースについて、トヨタに一貫する強い理念は感じなかったのだ。

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