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» 2015年11月12日 08時00分 UPDATE

世界を読み解くニュース・サロン:スーチー派が勝っても、ミャンマーが“変われない”理由 (4/4)

[山田敏弘,ITmedia]
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「最後のフロンティア」とはまだ言えない

 また、今回の選挙戦により、軍部が支配する与党(連邦団結発展党=USDP)の強引さがあらためて浮き彫りになったと言える。例えば、政府は選挙前に、絶妙のタイミングで軍人や役人らの給料をアップさせている。2015〜2016年の予算では、政府高官の給料は2倍近くに増加した。つまり軍部や政商に関わる有権者は、当然、与党候補に投票するだろう。

 ただ以前より付き合いのある元ビルマ軍のミャンマー人は選挙前に、「不正をしなくとも、政府機関などの職員や軍関係者は票をチェックされる恐れもあると考えて、与党USDPに票を投じるより他ないだろう」と嘆いていた。

 また軍の与党USDPは今回、票のためにとんでもない暴挙に出ている。仏教国のミャンマーは西部に暮らす少数民族のイスラム教徒ロヒンギャ族を国民と認めずに迫害を続けている。また強硬派仏教徒の集団もイスラム教徒と衝突し、暴力の応酬を繰り広げてきた。

 USDPはそこに目をつけ、有力な強硬派の仏教徒集団と接触、イスラム教徒に不利になるような法律を制定する代わりに、USDPに投票する約束を取り付けた。仏教徒の票は選挙の行方に大きな影響を及ぼすからだ。つまりミャンマー政府は人種差別を推進することで票を買っているような政権なのである。

 今回の選挙結果がどうなろうと、これがミャンマーの現実である。軍政時代より解放された経済はマイナスからのスタートであり、放っておいてもある程度の経済成長はする。ただ少なくとも「最後のフロンティア」とはまだ言えないのではないだろうか。

 ミャンマー政府はかねてより、今回の選挙と、今年末に行われるASEAN(東アジア諸国連合)の経済共同体(AEC)発足で、ミャンマーの民政移管が完了すると考えている。その後に、どうあがいても現憲法がすぐに改正されることは考えにくいし、軍政時代に既得権益を得た軍関係者や政商らがその利権を簡単に手放すとは思えない。

 ただ、一歩を踏み出さなければ何も変わらない。約5000万人の人口を抱え、勤勉な国民性と安い労働賃金など、ミャンマーのポテンシャルが大きいのは誰もが認めるところである。また3年後に同じ話をしなくてもいいようにと、願うばかりである。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』『』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


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