始まった「本物ビール」戦争 ビール離れした消費者を呼び戻せ片山修のニュース深堀り(2/3 ページ)

» 2016年02月03日 08時00分 公開
[片山修ITmedia]

動き出した各ビールメーカー

 もっとも、酒税法改正案がいわれはじめたのは2年以上も前である。実は、ビールメーカー各社は酒税法改正をにらみ動いてきた。つまり、ビール戦線の異常を先取りし、商品開発を進めてきたのだ。

 例えば、キリンビールは“味”を目玉にビールの売り込みを図った。昨年4月、代官山にクラフトビール専門の飲料店をオープン。また、5月には全国にある9つの工場ごとに味の違う「キリン 一番搾り生ビール」を発売した。「ご当地ビール」である。これが、予定の3倍を売り上げる大ヒットとなり、12月に発売した第2弾も好評だった。結果として、キリンビールは昨年、21年ぶりにビール販売が前年比でプラスに転じた。

photo ご当地ビール

 サントリービールは新商品を前面に打ち出した。昨年9月、29年ぶりに「モルツ」を全面刷新した「サントリー ザ・モルツ」を発売。当初200万ケース(1ケース、350ミリリットル24本入り)の販売計画だったが、予想を上回り342万ケースも売れた。結果、サントリービールのビール販売量も前年比で5%伸びた。

 これらの成果もあって、2015年の国内ビールの課税済み出荷量は前年比0.1%とわずかながら上昇。じつに19年ぶりのことである。

photo 「サントリー ザ・モルツ」

 若者を始め、消費者のアルコール離れがいわれて久しい。ビール市場は今でも酒類の中で売上が最も大きいが、バブル崩壊後は消費者の低価格志向が強まった。1994年以降、「サントリー ホップス<生>」「サッポロ ドラフティー」など、発泡酒市場が形成されたほか、2003年に発泡酒の税率が引き上げられて以降は、「サッポロ ドラフトワン」「サントリー 麦風」などいわゆる「第三のビール」市場が形成された。その後も、長引くデフレのなかで、各社は低価格商品の市場に注力しつつシェア争いを繰り広げてきた。

 その意味で、メーカーは本丸のビールで消費者の心をつかむ努力を、あまりしてこなかったという言い方ができるかもしれない。その結果というべきか、ビールやビール系飲料の市場は、縮小の一途をたどったといえるだろう。

 ただ、その一方で「サッポロ ヱビス」「サントリー ザ・プレミアム・モルツ」に代表されるプレミアム・ビール市場だけは順調に伸びた。「消費の二極化現象」といっていいだろう。また、ノンアルコールビールや、カロリーオフ、糖質オフなど機能性のビール系飲料も、近年とみに増加した。

 そうした中で、酒税改正によって手薄になっていた本丸のビールに追い風が吹く。この変化を味方につけようとビールメーカー各社は今年、一斉にビールに力を入れるのだ。

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