キリンビールは昨年の成功を受け、今年の春から夏にかけて9つの工場だけではなく、47都道府県それぞれの地域に合った味で楽めるビールを随時発売するという。
このほか、サントリービールは今年、サントリー ザ・プレミアム・モルツのさらに上の価格帯である「サントリー ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」に力を入れる。昨年、305ミリリットル瓶で318円(税込)という高価格で、コンビニなどチャネル限定で発売したが、これを全チャネルに拡大する方針だ。さらに「サントリー ザ・プレミアム・モルツ<香るエール>」を発売し、エールビール市場も創造するとして鼻息が荒い。
一方、アサヒビールは遅ればせながら、今年3月、7年ぶりの新ブランドとなる「アサヒ ザ・ドリーム」を発売する。主力ビールでありながら「糖質50%オフ」と機能性を訴求し、健康志向の顧客層を取り込む戦略だ。
サッポロビールもまた、今年を「ビール強化元年」とし、「ヱビス」を33年ぶりに刷新するなど力を入れる。
もっとも、人口減少、団塊の世代の飲酒量低下、若者の酒離れ、さらには嗜好の多様化などが指摘される中、国内ビール市場が今後劇的に回復するとは考えにくい。しかし、例えばウイスキーは、80年代後半から市場縮小傾向をたどり続けたものの、「ハイボール」人気で若者に受け入れられ、2009年以降、回復傾向にある。
ビールもまた、新しい需要や価値の創造によって、最盛期の規模までは戻らずとも、ビール離れに歯止めをかけられる可能性は十分にあるはずだ。
ビール業界はこれまで、価格競争に加え、縮小するパイの奪い合いに躍起になってきた。しかし、酒税法の改正をきっかけとして、新しい戦略や商品を提示し、いかにビール市場を活性化するかという前向きな姿勢に変化した。いわば、“本物のビール”をめぐる競争が始まったのだ。アルコール離れ、ビール離れしたといわれる消費者を呼び戻し、また、新たな顧客を獲得する好機である。
とはいえ、酒税法改正後も、発泡酒や第三のビールの方が、ビールより安いことに変わりはない。「やっぱり、安いほうでいいか」と、第三のビールに手を伸ばす、デフレマインドを引きずる消費者の気持ちを、いかにビールに向かわせるか。各社の腕の見せ所といっていいだろう。
愛知県名古屋市生まれ。地方新聞記者を経て、フリージャーナリストに。
2001年から2011年まで10年間、学習院女子大学客員教授を務める。著書に「ソニーの法則」(小学館文庫)20万部、「トヨタの方式」(同)8万部のベストセラーなどがある。
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