燃費のウソとホントと詳細池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2016年05月23日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

実燃費はなぜ発表値と異なるのか? 走行抵抗編

 さて、ではなぜ実走燃費が発表値と異なるのだろうか? 以下では近年のエコ技術を背景にその差がどうして起きるのかを解説してみたい。こちらが今回の本題である。

 燃費を良くしようと思えば、まず同じ量の燃料からより効率良く力を取り出すことだ。当然ながらそれを効率良く利用するためにエネルギーを減衰させないことが重要になる。

 まずは簡単なほう、つまりエネルギー減衰の話から始めよう。一番大きいのは空気抵抗だ。これは速度の2乗に比例する。速度が上がるほど燃費が加速度的に悪影響を受ける。速度はあくまでも変数だから、クルマ固有の性能、つまり定数になるのは前面投影面積と空気抵抗値の積だ。前から見て面積が大きいと抵抗が大きい。クルマの幅を狭く、かつ背を低くすれば技術的には簡単には下がるが、そうすると居住空間が狭くなるので商品力の面で簡単にはできない。

エンジンの冷却の必要度によってラジエター内に設けられたシャッターを閉じて空力性能を向上させる。実はエンジンの熱損失の低減の役割も果たしている エンジンの冷却の必要度によってラジエター内に設けられたシャッターを閉じて空力性能を向上させる。実はエンジンの熱損失の低減の役割も果たしている

 商品力を落とさないためには、前面投影面積はそこそこにして空気抵抗値を小さくする。空気抵抗値は「物体の形状が決める気流をかき乱す割合」を意味する。いわゆる「CD値」だ。最悪な形状は板状のもので、CD値の極大値となる1だ。最近のクルマはボディの段差の軽減や側面視形状に工夫を凝らし、0.3より低いのが当然。現在の最先端のプリウスは0.24を達成した。そのためにラジエターの導風口にシャッターを設けて、冷却が必要ないときは入り口を閉じてCD値を減らすといった工夫まで行われている。

 余談だが、F-1は異常なほどのハイパワーを路面に伝える必要から、空気の力を利用して車体を路面に押し付けたいので、むしろどうやって空気を捕まえるかの技術開発が行われている。その結果CD値はほぼ1。つまり板と同じで極大だ。

 CD値だけでなく、前面投影面積を減らすための努力は実用車でも行われている。例えば、プリウスの屋根を観察してみてほしい。運転席と助手席の間には凹みが作られていて、数平方センチメートルであっても前面投影面積を減らす努力が払われているのだ。

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