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» 2016年07月01日 08時00分 UPDATE

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:東海道新幹線の新型車両「N700S」はリニア時代の布石 (1/4)

JR東海が東海道新幹線向けに新型電車「N700S」を発表した。最高速度は変わらず、最新技術は省エネルギーと安全性と乗り心地に振り向けられた。さらにN700Sには新たな使命として「標準化車両」というキーワードを与えられている。高品質な車両を国内外問わず提供するという。しかし本音は「東海道新幹線の変化に対応し、その価値を維持する」ではないか。

[杉山淳一,ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 JR東海は「N700」というブランドがお気に入りのようだ。

 2007年に登場した新型車両はN700系。これは先代の700系に比べるとスタイルも違うし性能も違う。700系は山陽新幹線の最高時速が285キロメートルだった。N700系では山陽新幹線で最高時速300キロメートルを出せる。山陽新幹線では先々代の500系が時速300キロメートルを達成しており、700系で一歩後退という形だった。N700系はふたたび時速300キロメートルに達した。

 さらに、車体傾斜システムの改良によって、700系では時速255キロメートル制限がかかっていた曲線も時速270キロメートルで走行可能になった。700系の先頭車は丸みを帯びて、「カモノハシ」とあだ名が付いた。N700系の先頭車は直線をあしらって、鼻筋が通っている。JR東海自身が「エアロ・ダブルウィング」と紹介し、鉄道ファンもその名に習った。

 700系に対してN700系はフルモデルチェンジにふさわしい。本当なら新しい形式を与えたいくらいだ。しかし700の次の800は九州新幹線で使っているし、900はドクターイエローなど非営業車で使っている。ならばいっそ、1000系でも良さそうなものだけど、JR東海は700にこだわった。

N700Sの外観。標識灯の位置は未定。標識灯は車両の顔を決める重要な要素だけど、この車両の新たな技術と設計思想に比べれば優先度が低い、と判断されたようだ(出典:JR東海報道資料) N700Sの外観。標識灯の位置は未定。標識灯は車両の顔を決める重要な要素だけど、この車両の新たな技術と設計思想に比べれば優先度が低い、と判断されたようだ(出典:JR東海報道資料

「N700」は最高時速300キロメートルの象徴

 2013年に登場した「N700A」は、N700系のマイナーチェンジ版と認識されている。外観は変わらず、最高速度も当初はN700系と同じだった。ただしブレーキ性能は改良されており、東海道新幹線の最高速度を時速285キロメートルに引き上げたときは、N700Aのみ対象となった。電車の最高速度を上げるには、モーターの出力やギア比の工夫だけではダメだ。安全に止まる距離を維持しなくてはいけない。つまり、ブレーキを改善すれば、最高速度を引き上げられる。

速度性能の新時代を築いた「N700A」。先頭車形状はN700系のまま(出典:JR東海報道資料) 速度性能の新時代を築いた「N700A」。先頭車形状はN700系のまま(出典:JR東海報道資料

 N700Aの登場以降、既存のN700系はN700A相当の性能に改造された。このことからも、N700AはN700系のフルモデルチェンジではなく、マイナーチェンジ(改良版)という印象を与えた。ちなみに当初からN700Aとして製造された編成は、車体側面に大きく「A」の文字が入る。N700系をN700A相当に改造した車両は、既存のN700系のロゴのそばに小さな「A」の文字が加えられた。鉄道ファンは前者を「ラージA」、後者を「スモールA」と呼ぶ(関連記事)

 6月24日、JR東海は次世代の東海道新幹線車両「N700S」を発表した。名称を追うと、N700系からN700Aの進化がマイナーチェンジというなら、N700AからN700Sへの進化もマイナーチェンジという印象だ。しかしN700Sはフルモデルチェンジだ。JR東海はN700というブランドにこだわっている。その理由は「好きだから」というわけでもなさそうだ。

 N700系は山陽新幹線で時速300キロメートル時代を復活させた車両。N700Aは東海道新幹線を時速285キロメートルに引き上げた車両。つまり、N700ブランドは言わば「300・285時代」の象徴だ。JR東海のN700Sの報道資料には、新型車両発表時によくある「旧形式との性能比較表」がない。速度や所要時間に変わりなく、300・285時代の新車と言える。もし、次の新型車両も300・285時代を踏襲するなら、きっと車両の名前は「N700Z」。N700シリーズ究極の車両という意味になるかもしれない。

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