なぜ鳥越俊太郎さんは文春・新潮を告訴するという選挙戦略をとったのかスピン経済の歩き方(3/4 ページ)

» 2016年08月02日 10時48分 公開
[窪田順生ITmedia]

鳥越さんはジャーナリストらしいジャーナリスト

 ああいう惨めなサンドバック状態だけは避けたい。そういう恐怖にとらわれれば、宇野さんのように無視を決め込んだり、「事実無根だ」という主張を繰り返したりするだけでは心もとない。そこで念には念をということで、「告訴」という策をとったのではないか。

 そこにはジャーナリストだからできた「打算」もある。女性の夫である男性と3人で面談をしているということを鳥越さん自身もお認めになっているように、会見などで釈明をすればドツボにハマる恐れがある。

 そこで「告訴」というアクションに出れば、「弁護士先生に任せています」というコメントで乗り切ることができる。おまけに、弘中淳一郎さんのような週刊誌キラーの弁護士が立てば、冤罪事件などの支援をしていた人の理解・支持も得られる。そう考えると、51年間のジャーナリスト経験から導き出された老獪(ろうかい)な広報戦略といえるかもしれない。

 もちろん、選挙前の候補者としての立ち振る舞いとしてはまあ分からんでもないが、ジャーナリストとしてはどうなのさという意見もあるだろう。

 確かに、それまでタブーだった政治家と芸者の関係を白日のもとにさらした際、鳥越さんはこんな男前なことをおっしゃっている。

 『宇野さんの問題でいえば、現職の首相に愛人がいたという男女問題だけで報じるつもりはなかった。しかし、取材すると女性はコールガールのような扱いをされ傷ついていた。売春という犯罪行為と判断し報じたわけです』(2000年10月28日東京新聞)

 「文春」「新潮」によれば、女性は今も心に傷が残っているというが、鳥越さんは「あっちの妄想です」と言わんばかりにだんまりを決め込んでいる。「愛人関係」を「売春」と断定するほど、被害者によりそうジャーナリストにしては、あまりにも二枚舌じゃないのという方もいるかもしれない。

 ただ、かばうわけではないが、鳥越さんほどジャーナリストらしいジャーナリストはいないと思っている。

 国際経済学者の浜矩子さんが2008年、新聞業界の集まりである「新聞大会」に招かれ、基調講演を行った。そこで、国際経験豊富な浜さんらしい興味深い指摘をしている。

 『ジャーナリストとエコノミストには共通点がある。よきエコノミストが備える条件は、独善的で懐疑的で執念深いこと。ジャーナリストも同じ。謙虚で疑問を抱かず、あっさり敗北を認めるのは「いいジャーナリスト」ではないと考える』(2008年10月20日 新潟日報)

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