「上場ゴール」か、成長途上か LINEは上場初日の評価を超えることができるのか(1/3 ページ)

» 2016年08月18日 06時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 7月15日に上場したLINE。国内でダウンロード数・売り上げともにナンバーワンのアプリを運営する同社は国内で今年最大級のIPO(新規上場)となり、市場の注目は集まっていた。しかし上場には懐疑的な見方も少なくなく「今後の成長余地が少ない」「いま上場する意図が見えない。“上場ゴール”ではないか」といった声もあった。

 上場初日は公開価格の3300円を大きく上回る4900円からスタートし、その日のうちに5000円の高値を付けた。しかし、7月中は下降傾向に。27日に好調な1〜6月期業績が発表されたにもかかわらず、8月1日には3780円の上場来安値に。だがその後、証券会社によるレーティング引き上げで切り返し、16日には4780円に上昇した。

日本ではトップのLINE。しかし海外展開の成否や今後の成長余地について懐疑的な声も

 LINEをどう評価すべきか、市場は図りかねているようにも見える。期待と不安が交錯するLINEの上場を、アプリ業界はどう見ているのか。スマートフォン向けアプリ分析サービスのApp Annie(アップアニー)の日本・韓国担当リージョナルディレクター 滝澤琢人さんに聞いた。

LINEは上場ゴール?

 LINEは国内ナンバーワンのメッセージアプリ。だから、日本市場でのこれ以上の伸びは難しく、“上場ゴール”なのではないか――そんな疑問に対し、滝澤さんは「そんなことはない」と否定する。

 「LINEを始めとするメッセージアプリにはまだまだ可能性がある。というよりも、モバイル市場に大きな可能性があると言っていいかもしれない。モバイルシフトの大きな波が来ていて、“あらゆるサービスに大きな影響を与える”入口になっている」(滝澤さん)

 消費者の多くは情報を得る手段としてスマートフォンを使うようになっていて、企業にとってはかなり強い新たな接点となっている。これからの企業戦略の要になるのはモバイルで、新しいサービスの起点となると考えている企業も増え始めているのだという。

 消費者とモバイルの接点というと、一番想像しやすいのがオンラインショッピングだ。経済産業省によると、2015年の国内EC市場規模は13.8兆円と、前年から7.6%拡大した。成長の背景には、“気軽に、ストレスなく、欲しいと思った時に物を買いたい”という消費者の願望と、モバイルでの買い物という形態がマッチしたことがある。

 例えばコーヒーチェーンの米Starbucksは、「モバイル・オーダー・アンド・ペイ」での売り上げが好調だ。アプリを通じて注文と決済を行い、所定の時間に店に向かえば並ぶことなく商品をピックアップできるのが特徴。利用者の客単価は他の顧客の約3倍という分析もあり、収益の大幅増に貢献している。「EC以外でも、店舗や旅行や交通などのジャンルには、まだまだモバイルによって発展する余地が十分にある」と滝澤さんは語る。

米Starbucksの収益大幅増に貢献している「モバイル・オーダー・アンド・ペイ」

 また新興国や若年層では「PCを持っておらず、インターネットにはスマホでだけ接する」という層も増えてきている。このような層が増えていけば、「モバイルファースト(Webサイトを公開するときに、モバイル版を先に公開する)」ではなく、「モバイルオンリー(モバイル版のみに向けてサービスを提供する)」という流れも生まれてくる。

 「若い人のコミュニケーションが、今はモバイルに集中している。動画配信のAbemaTVやNetflixはPC版もあるが、スマホ版で大きく成長している。こういったサービスがモバイルオンリーにシフトするようになるのは時間の問題。さらに、モバイルは現状スマホが6割で従来型携帯電話(ガラケー)が4割だが、これからますますスマホシフトして、ますます生活になくてはならないものになっていく」(滝澤さん)

 普及が進み、既に飽和しているとも言われるスマホだが、スマホを活用したモバイルサービス自体はまだ入り口に立ったばかり──ということになる。モバイル市場が爆発的に伸びていき、今後も加速していくことが予想される状況下で、国内ナンバーワンメッセージアプリであり、海外展開も進めているLINEには大きな可能性と発展性がある――という見方はできそうだ。

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