業界関係者が「ポケモンGO」の世界的大ヒットを“予測できなかった”ワケ

» 2016年07月21日 13時41分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」が、世界各国で爆発的にヒットしている。App Storeの無料&トップセールスランキングでは、配信している34カ国全てで首位を獲得。米国では社会現象にもなっており、初登場の7月7日から21日現在まで1位を走り続けている。

 日本では配信時期は未定だが、20日には日本マクドナルドが同アプリと店舗の連携を発表。任天堂を始めとする株価もぐんぐん上昇する事態は「ポケモノミクス」と呼ばれるなど、期待が過熱状態にある。

 この熱狂を、実はアプリ業界関係者は誰も予想できていなかった。その理由を、スマートフォン向けアプリ分析サービスのApp Annie(アップアニー)の日本・韓国担当リージョナルディレクター 滝澤琢人さんに聞いた。

世界で大ヒットしている「ポケモンGO」。App Annieのランキングを見ると、「ポケモンGO」のアイコンが1位にずらりと並ぶ

誰も予想していなかった「ポケモンGO」の世界的ヒット

 スマホ向けアプリの特徴は、「App Store」と「Google Play」という2大プラットフォームがあることで、どんなアプリも世界の市場で戦えることにある。これまで、国をまたいで大ヒットとなったゲームはいくつか出てきている。

 例えば、ストラテジーゲーム「クラッシュ・オブ・クラン (Clash of Clans)」、バトルRPG「ゲーム・オブ・ウォー(Game of War)」、パズルゲーム「キャンディークラッシュ(Candy Crush)」などが、世界でも日本でもヒットしたゲームだ。しかし、これらのゲームは全て“海外発”。「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)や「モンスターストライク」(ミクシィ)など は、日本のゲーム市場の“勝者”だが、海外展開を――となると、大成功はしていないのが現状だ。

世界でヒットしたゲームアプリ「クラッシュ・オブ・クラン (Clash of Clans)」(左)と「ゲーム・オブ・ウォー(Game of War)」(右)

 「ポケモンGO」は、ゲーム自体の開発はGoogleの社内ベンチャーからスタートしたNianticが担っているが、「ポケットモンスター」という日本が生んだIP(知的財産)を使っている。

 「日本発のIPが、世界の市場でトップになるのは初めて。ここまでの熱狂的なヒットを、アプリ関係者は誰も予想していなかった」(滝澤さん)

 なぜ誰もヒットを予想できなかったのか。それは、アプリ業界での“常識”が原因だった。

 「もともとアプリ業界の中では、『日本のIPはニッチ』という見方が一般的になっている」(滝澤さん)

 そのため海外展開の際には、ローカライズはもちろん、もともと日本のIPを好んでいるようなコアなファン層に向けてアプローチする必要があった。コア層に向けて出していくと、どうしても大きなヒットにはなりにくい――という面があった。「ポケモンGO」も、もちろんファンはたくさん生まれるだろうが、爆発的なヒットにはならないだろう……多くの関係者はそう予測していたのだ。

 しかし蓋を開けてみれば、この圧倒的支持だ。「『ポケモンGO』がすごいのは、ダウンロード数や収益だけではなく、遊んでいるユーザー層の幅広さ」と滝澤さんは語る。

「ポケモンGO」でアプリ業界に「AR」「位置情報」ブームは来るのか?

 日本でリリースされれば、ランキング上位に来るのはまず間違いないだろうと期待が集まる「ポケモンGO」。では、アプリゲーム業界に「AR(拡張現実)」や「位置情報」のブームが来るのか……と思いきや、実はそうではないのだとか。

 「ARや位置情報ゲームは、特段新しいものでも珍しいものでも、最先端の技術ではない。『ARだから』『位置情報だから』ヒットしたという見方は違う」(滝澤さん)

 「ポケモンGO」と同じくNianticが開発した位置情報ゲーム「Ingress」。「ポケモンGO」にもそのノウハウや情報がふんだんに使われている作品だが、実はアプリ全体のランキングで見ると「悪くはない」程度の立ち位置。「位置情報ゲーム」というジャンルの中では、大成功モデルとして捉えられ、コアなユーザーも多いが、ダウンロード数やセールスのランキングで10位には入らない。

「ポケモンGO」と同じくNianticが開発した「Ingress」は、ジャンル内では大成功だが、全体としては「悪くはない」位置

 「『Ingress』のゲームシステムが、『ポケットモンスター』という大型IPの世界観とマッチした。現実世界での“宝探し”が魅力的なゲームになったからこそ、『ポケモンGO』はヒットした」――と滝澤さんは言う。

 2匹目のドジョウを狙おうとしているなら要注意だ。

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