怖がりでも大丈夫、後味の良いホラー小説のススメ内田恭子の「いつもそばに本があった」(2/3 ページ)

» 2016年09月22日 08時00分 公開
[内田恭子ITmedia]

ホラーとは知らずに読んだ小説

 そんな私が大好きなホラー小説がある。宮部みゆきさんの「三島屋変調百物語」シリーズだ。

 宮部さんはお気に入りの作家の一人。文章がきれいだし、どの作品も読後感が良い。ミステリー小説などで人間や世の中の闇の部分をどんなに書いていても、最後は救いがあるので後味が悪くないのだ。

 ホラーとは知らずにこのシリーズの第一弾である「おそろし」を読み、第二弾の「あんじゅう」、そして次の「泣き童子」と、すっかりハマってしまった。この小説には、読み終わった後に背筋がゾクッとする話ももちろんあるけれど、ただの怖いホラーとは違い、どれも心に嫌な残りかたはしない。むしろほんわりとするものもあるから不思議。人の気持ちの切なさ、もろさ、情、愛といった、誰もが心の中に持っている感情を突いてくるから、ぐっと惹き付けられてしまう。

 三島屋変調百物語の舞台は江戸。叔父夫婦が営む袋物屋の三島屋に身を寄せているおちかが主人公だ。ひょんなことからさまざまな事情を持った人たちの不思議話(変わり百物語)の聞き手を務めることとなる。おちか自身も忘れられない辛い過去があるのだが、訪ねてくる人々の不思議な話を聞いていくうちに、そして周りにいる心温かい人々と接していくうちに、閉ざしていた心を次第に開いていく。

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