新卒一括採用が「若き老害」を生み出している常見陽平の「若き老害」論(2/3 ページ)

» 2016年10月07日 07時00分 公開
[常見陽平ITmedia]

なぜ、毎年「今年の新人は生意気」なのか

 「今年の新人は生意気だ」――これまたよく社内で発せられる言葉である。思えば、私も会社員時代はこのような言葉を叩きつけられたことがあったし、いつの間にか後輩に対して、そんなことを言っていた。採用担当者をしていた頃は、社員がそんな言葉を発している様子を見聞きした。お叱りの声も頂いた。「人事は、何をやっているのか」と。

 この「今年の新人は生意気だ」問題は、なぜ起こるのだろうか? 一般論として語られるように、世代間のギャップなどに起因する問題でもある。これは、人事部の採用戦略によってもたらされるものでもあるのだ。

 新卒一括採用という慣行のもとでは、毎年、採用戦略は変わる。求人倍率、就活の時期など、採用市場は毎年変わる。ビジネスモデルの変化、戦略的に投資する事業の変化などが起こり、求める人物像は変化する。このように、外部、内部の変化により、年度ごとに採用テーマは変わる。昨年よりも優秀な人材を採ろうと努力するのが、採用担当者の習性である。求める人材は毎年、高度化していく。故に、毎年やってくる新人はいかにもその企業に合ってそうな人材でありつつも、どこか生意気になりえるのである。

photo 採用テーマは毎年変わる

 もっとも、採用戦略をたてたところで、その通りに採用できるとは限らない。直近のデータを見てみよう。リクルートワークス研究所の調べによると2017年4月入社、つまり現在の大学4年生の代の新卒の求人倍率は1.74倍である。新卒の求人倍率は1.6倍を超えると売り手市場水準だと言える。リクルートキャリア社の調べによると、2017年卒の就活生は8月1日時点で2.4社の内定を持っている。

 入社する企業は1社だけなので、内定辞退が発生するわけだ。ここ数年、この内定辞退が深刻になっている。採用戦略は毎年変わるが、その戦略通りに採用が成功するとは限らない。高い目標を掲げても上手くいかない年もある。

 入社人数というのも、世代間闘争を促すものである。大量採用を行った年などは、同期もその分多いため、妙な影響力を持ったり、老害化するものである。

 個人的には「今年の新人は生意気だ」という声が出るのは、実は採用が上手くいった年だと思っている。もちろん、基礎力も潜在能力も高くないのにも関わらず、生意気なのは問題だが、「扱いづらい」という意味での生意気さなら歓迎すべきである。

 このように、その年度の採用戦略、そして、採用が上手くいったかどうかによって、「○年入社組」というものが作られ、世代間での競争が起こっていくのである。入ってきた生意気な、今までとは違う若者を見て、思わずマウンティングしたくなり、「若き老害」化してしまうのだ。

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