こうしてさまざまな事情によって、アクセル、ブレーキ、ハンドルの3つのアクチュエーターが、電気で自由に操作できるようになった。そこへさらにぶつからないブレーキの性能向上のためにカメラが装備され、対象の判別用に画像解析ソフトが積まれるようになった。こうしたセンサーはミリ波レーダーやレーザーレーダー、カメラなどで複層化され、それを処理するコンピュータの能力も底上げされた。
前方状態を監視できるセンサーが搭載され、それを画像処理して状況を把握できるようになった。既にアクチュエーターとしてはアクセルもブレーキもハンドルも、いつでもコンピューターが制御できる体制が整っている。
だから自動運転そのものは、何も特殊な技術ではなく、クルマ側に徐々に備わって来た装備を、統合して制御したという話に過ぎない。
問題はその制御だ。複雑に分岐する条件をどのように判断し、制御していくかが極めて難しい。特に人と人なら難なく行えるアイコンタクトはクルマの自動運転にとっては非常に難しい。「あ、今相手が譲っているから自分が進もう」というような判断は自動制御には盛り込み難い。
そこに到達するためには車両間通信によって、相手側車両とどちらが優先になるかを決めるしかない。しかしそのためには相手の車両にIoT(モノのインターネット)による通信可能なシステムが搭載されていなくてはならない。それはまだ大分先のことになるし、相手が自転車や歩行者であったなら成立しない。ドライバーが行っている処理のうち、最も難しいものになるだろう。
来たるべき高齢化社会のためには自動運転はどんどん必要性を増していく。しかしながらそこへ至るためには一歩ずつ着実に技術を磨き、インフラを整えていかなくてはならない。ショーアップされたカリスマの発言で世界が一気に変わったりはしないのだ。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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