「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2016年11月21日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

2つのアシを作り分けたNDロードスター

 そこで、2015年に登場したNDロードスターでは足回りのセッティングを複数用意した。1つはスタビライザーによって旋回時のロール剛性を高めて、高速旋回能力を強化したモデル。これがSレザーパッケージとSスペシャルパッケージである。いわばグローバル対応モデルだ。

 対して、ロードスターの本貫である低速特化型の日本専用モデルとして用意されたのがSである。Sはスタビライザーと補強板が一部省略されている。スタビライザーがないので、ターンインから外側フロントを沈めたダイヤゴナルロールへ、さらに駆動力を掛けて外側前後輪が平行に沈む平行ロールへという各段階の移行においてリヤサスの伸びが邪魔されず、素直に動く。その結果、減速からターンイン、旋回に入るまでの挙動が自然で、外乱にも強い。

 最廉価モデルであるがゆえに、お買い得用の装備簡略版と見なされることが多いが、実はこれこそが開発チームに「NAロードスターの再来を目指した」と言わせる本命モデルだ。平行ロールに入ってからの定常旋回の長いコーナーではスタビライザーがあった方が良いが、そこまではスタビライザーはコーナリングの邪魔をする。ターンインの後、すぐ脱出になるようなワインディング路であれば、スタビライザーは邪魔なことも多いのだ。

古きよきファストバックスタイルを実現した後ろ姿。徹底的にコンパクトにしたボディにルーフを収めるために生まれたスタイルだ 古きよきファストバックスタイルを実現した後ろ姿。徹底的にコンパクトにしたボディにルーフを収めるために生まれたスタイルだ

 ただし、タイヤはコストとの兼ね合いで、すべてのモデル(追加車種のRFは異なる)が同一タイヤを採用しなくてはならなかった。その結果、本来低速スペシャルのSには過分なグリップのタイヤが採用されている。ハイグリップタイヤによって増えた横力は、旋回時にリヤタイヤを支持するブッシュの弾性変化を大きくし、リヤタイヤのトーインを大きくして、曲がることに抵抗をする挙動を引き起こす。これがSのわずかな瑕疵(かし)となっている。念のために書いておくが、それを割り引いても、Sこそが歴代ロードスター後継として本命モデルであることは間違いない。

 つまり日本でのユースを考えると、高速道路の山岳区間を気持ち良く走りたいならSスペシャルパッケージかSレザーパッケージを、もっと低速のワインディングを走りたいならSを選ぶと、一番おいしいところが楽しめるという構成になっている。

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