「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2016年11月21日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 さて、こうしてアシを作り分けたのは、ボディを軽量コンパクト、ショートオーバーハングにしたかったからだ。同じシャシーを使うアバルト124スパイダーを見ると、同一のホイールベースに対して、全長が145ミリも長い。つまり前後オーバーハングがそれだけ増えていることになる。

 ロードスター用のシャシーを提供したマツダはきっとこの数値を見て頭を抱えただろうが、低速の俊敏さより、高速の安定性を取るなら、長いトランクとトランクエンドのデザインによって高速でのスタビリティが確保できるのもまた事実だ。これは何を取るかの問題だ。そして世の中にはアバルト型のクルマが多く、マツダのような手間と暇をかけてまで徹底的にオーバーハングを削るメーカーは少ない。

斜めの弾性軸を持つリヤサスペンション。横力でトーインが付く設計は歴代ロードスターで踏襲してきている 斜めの弾性軸を持つリヤサスペンション。横力でトーインが付く設計は歴代ロードスターで踏襲してきている

 NDロードスターは車両の前後端と乗員の肩の後方に衝突安全のための横方向メンバーが通っている。このメンバーは当然強度が必要だから重くならざるを得ない。しかし、前後端で重量が増えればヨー慣性モーメントが増えるし、肩の後方はと言えば、これもまた車両の一番高い位置で、重量が増えればロールが増加する。だからコストをかけて金属バットに使う7000番台のアルミ押し出し材を使って軽量化を行った。ある意味一点豪華主義とも言える高価な部品である。そんなことをやってくれたからこそ、その低速俊敏性においてロードスターは多くの人の胸を打ったわけだ。

 こうやってギリギリのせめぎ合いの中で軽量、低ヨー慣性モーメントを徹底したクルマの、クリティカルに重心高に影響を与える位置に、重量増加一直線の電動金属ルーフを載せようというのだから、その真意をマツダに聞きたくなる。Sの原理主義にシンクロするユーザーなら「気でも違ったのか?」と言いたくなるところだ。筆者もそれを憂えていた一人である。

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