「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2016年11月21日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 もう1点、大幅に改善されたのは高速の直進安定性だ。既述のように、歴代ロードスターは低速にパラメーターを全振りしたスポーツカーだった。NDで多少高速旋回のスタビリティに手が加えられたとは言え、直進はまた話が違う。低ヨー慣性モーメントは、ハンドリングに絶大なメリットがあることと引き替えに、路面の不整で車両の進路が乱されやすい。チョロチョロするのだ。それがウソのように改善されていた。試乗から戻って最初にしたことは、操安性のエンジニアを捕まえて、何をやったのかを聞くことだった。リヤサスペンションのブッシュ容量を増やしたことが一番大きいのだと言う。

 そうした積み重ねの結果、普段はアシとして実用的に使いながら、時にスポーツカーとして鞭(むち)を入れて楽しめるクルマを求める人にとって絶好の一台に仕上がっている。率直な感想は現代版のMGBである。

電動ルーフはおよそ10秒で開閉可能。時速10キロ以下でなら操作が可能になっている 電動ルーフはおよそ10秒で開閉可能。時速10キロ以下でなら操作が可能になっている

 価格は324万円からと、幌モデルとはもうレンジが違う。複雑なルーフ開閉機構を採用し、どうやっても同じ価格レンジには収められないと悟ったマツダは、ナッパレザーのインテリアを採用するなど、質感の向上に努め、RFを「大人のためのスポーツカー」と定義した。幌モデルとの差額を考えると正直高いと思うのだが、グローバルでこうした2座のクーペがいくらするのかを考えると、日本人に生まれた幸福を感じざるを得ない。このスタイルならば、「オープンカーの屋根を閉めて走っている軟弱者」という妙なプレッシャーからも解放されるだろう。屋根を開けるも閉めるも自分が主体的に決めることができる。

 最後に少し宣伝をさせていただきたい。11月30日に筆者の初の書籍を出してもらえることになった。タイトルは『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』。版元はプレジデント社で価格は1900円(税別)。6月の終わりに広島へ赴き、25人のエンジニアに28時間のインタビューを敢行して、NDロードスターの開発に関する詳細を可能な限り書いた本である。本稿のサスペンションセッティングやエンジン開発の話はその成果の一部である。ご一読いただければ幸いに思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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