安倍政権は、家族の介護を理由に仕事を離れてしまう、いわゆる「介護離職」ゼロを掲げている。これを実現するには特養を増やすしか方法はないのだが、先ほどの入所条件厳格化などの例からも分かるように、現実の政策は逆方向を向いている。
介護離職ゼロを実現するためには、要介護者の多くを施設でケアする体制が必要となるが、これを実現した場合、介護費用は2倍に膨れあがるとの試算もある。介護保険料を倍増させ、国と自治体が5兆円程追加で負担しなければ、こうした施策の実現は不可能だろう。そのためには2〜3%の消費増税が必要となるが、家計の負担は相当に重くなってしまう。
日本の社会保障制度は、人口が増えることを前提に、つぎはぎだらけで運用が行われてきた。しかも、欧米各国とは異なり、老後の面倒は原則として家族がみるという共同体的な仕組みを前提にしている。制度を根本的に変えない限り、高齢化が進む現状においては、給付を減らし、家族がケアするという流れにならざるを得ない。
介護離職をなくし、かつ、十分な数の介護職員を確保するためには、欧米で見られるような個人完結型の社会保障制度に切り替える必要がある。だがそのためには、現在よりもはるかに高額の財政負担が必要となるだろう。高い国民負担を受け入れる代わりに、手厚い社会保障制度を望むのか。給付を抑制し、基本的に老後の面倒は家族がみるという制度を続けていくのか、私たちはそろそろ決断する必要がある。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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