「国民皆保険制度」という共産主義的な医療システムが根幹にある日本では基本的に、北は北海道から南は沖縄まですべて同じ質の医療を提供していなくてはいけない、ということになっている。堀医師に動脈塞栓術をしてもらった患者と、他の医師に動脈塞栓術をしてもらった患者の、結果が異なるというのは「すべての国民が安くて質の高い医療を受けられる」という基本理念を掲げる日本の医療政策的に絶対にあってはならない話なのだ。
ただ、そのような「問題」もさることながら、動脈塞栓術とういものを、我々一般人がほとんど知らないのは、もうひとつ大きな「問題」がある。数年前、ある学会で堀医師が動脈塞栓術を用いてがん治療をした結果を発表しようとしたところ、学会の座長がこのように紹介したという。
『皆さん、よく聞いてください。今から行われる発表は、私たちの学会でつくられたガイドラインから大きく外れるものです。その点をよく念頭に置いたうえで、今からの演題を聞いてください』(P64)
ご存じの方も多いと思うが、医師はそれぞれの専門領域の学会がつくる「診療ガイドライン」に基づいて診療をしているのだが、動脈塞栓術はそのガイドライン的にアウトとされているのだ。
例えば、堀医師は動脈塞栓術で乳がんを多く治療しているが、乳がん学会の診療ガイドラインでは、動脈塞栓術は「D」(推奨しない)となっている。つまり、堀医師は学会が認めていない治療をやっている「異端の医師」なのだ。
そのような治療をテレビや新聞で大きく取り上げられるわけがない。大多数の医療関係者からは「患者を誤解させるよう怪しい話をふれまわるな」とか「WELQみたいな似非科学報道しやがって」と怒られる。どんなに回復したという患者がいても、それを声高に伝えるリスクが高すぎる。
つまり、我々が「動脈塞栓術」の存在すら知らないのは、この治療が白い巨塔的に「タブー」だからなのだ。
この現状を、堀医師はこのように述べている。
『動脈塞栓術が十分に普及してこなかった原因のひとつは私たちにあります。十五年以上も動脈塞栓術で患者を治療してきたにもかかわらず、目の前の患者さんの治療に専念するあまり、論文や学会での発表を疎かにしてきたのです』(P59)
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