上陸から1年 社長が語る「UberEATS」好調の舞台裏「LINEデリマ」との競合にも自信

» 2017年10月02日 10時37分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 カーシェアリングサービスの米Uberが手掛けるフードデリバリーサービス「UberEATS(ウーバー イーツ)」が東京でのサービス開始から1周年を迎えた。同サービスはサンフランシスコやパリなど世界各国で展開しており、東京は8カ国34都市目だった。

photo Uber Japanの高橋正巳社長

 専用のアプリからレストランにデリバリーを依頼できるサービスで、洋食店「銀座スイス」、ドーナツ店「クリスピー・クリーム・ドーナツ」、大衆食堂の「大戸屋 ご飯処」など、高級店から大衆店まで幅広いレストランと提携。価格帯を問わず多岐にわたるメニューを取りそろえている点が特徴だ。

 顧客から注文が入るとレストランが調理を始め、出来上がると配達員が受け取って顧客に届ける仕組み。料理は平均35分と比較的短時間で受け取れる。会計はクレジットカードや「Paypal」に限定されており、現金のやりとりは不要だ。

photo UberEATSの仕組み

 こうした昔ながらの“出前”のイメージを変えるビジネスモデルが支持され、UberEATSはこの1年で事業を順調に拡大。昨年9月29日のサービス開始当初は約150店だった提携レストランは、1000店超にまで拡大した。展開エリアは渋谷区・港区に限られていたが、新宿区・中央区・品川区など計15区に増えた。1000人程度だった配達員の数は、現在は5000人を超えている。

photo サービス展開エリア

 Uber Japanの高橋正巳社長は、好調の要因について「レストラン・配達員・顧客の3者にメリットを提供できる点が大きい」と分析する。

提携レストランのメリットとは

 UberEATSの進出以前、日本のレストランは配達員と車両の確保に一定のコストが必要な点がネックとなり、デリバリーサービスの導入に消極的な企業が多かったという。

 Uberはこうした状況に着目し、外部で確保した配達員に配送を委託することで、レストランが初期投資を抑えた形でデリバリー事業を開始できるビジネスモデルを採用した。

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photo 提携レストランの一部=公式サイトより

 さらに、売り上げ状況・売れ筋商品・顧客満足度などの情報をWebブラウザで確認できるツール「レストランマネジャー」を開発。提携レストランに同ツールを提供することで、これまで定量的な把握が難しかった情報を可視化できる体制を整えた。

 こうした施策が評価され、提携レストランの拡大に成功。現在の提携先のうち約6割が過去にデリバリーサービスを実施しておらず、UberEATSとの提携を機に始めたという。

 また、アプリでメニューを表示するというUberEATSならではの機能が、提携レストランがこれまでリーチできなかった顧客層への認知度向上につながっているという。

photo TANPACの中崎祐史社長

 東京・六本木などでレストラン「筋肉食堂」を運営するTANPACの中崎祐史社長は「当社は健康志向の顧客をターゲットとした戦略を展開しているので、通常の店舗運営だけで顧客を拡大するのが難しかった」と話す。

 「UberEATS導入後は、Uberのネームバリューで注文が増えたほか、アプリで当社を知った女性客が実店舗に来店するケースも増えている。店舗のコンセプトや店舗名の特徴上、女性客の確保に苦労していた状況を改善できた」(中崎社長)という。

photo 提携レストランへのメリット

「ボタンを押すだけ」で働ける

 配達員向けには、アプリを起動し、勤務可能な日時を入力するだけで最適な案件をマッチングする仕組みを設けている。柔軟な勤務が可能なため、フルタイムやシフト制での勤務が困難な層から支持されているという。

 高橋社長は「配達員の働き方にもシェアリングエコノミーの概念を取り入れた。アプリのボタンを押すと車や料理が来る当社サービスと同じく、配達員はボタンを押すと仕事ができる仕組みにした」と説明する。

photo 配達員も順調に拡大している

 現在は学生、子育て中の主婦、役者・芸人など芸能関係者、副業としてスキマ時間に働きたい会社員などが主力の配達員として働いているという。

photo 配達員の働き方の特徴=公式サイトより

アプリの改善にも注力

 顧客向けにはアプリの機能改善に注力し、より料理を頼みやすい仕組みの実装に取り組んでいる。

 サービス開始当初から、料理の受け取り場所の指定機能や、配達状況をリアルタイムで確認できる機能を提供していた。その後は、1週間前〜1時間前から予約注文ができる機能、機械学習を活用しておすすめレストランを表示する機能などを相次いで追加し、顧客満足度の向上に努めている。

photo UberEATSのアプリ

 主な顧客層は、1人暮らしの単身者から家族連れまで多岐にわたる。外食する時間が取れないビジネスパーソンが、オフィスから昼食などを注文するケースも増えているという。

 高橋社長は「UberEATSのサービスが、フレキシブルにおいしい料理を食べたいという顧客のニーズにマッチしているとの手応えを得ている」と自信を見せる。

年内に横浜でサービス開始予定

 今年7月には、コミュニケーションアプリなどを手掛けるLINEが、デリバリーサービス「LINE デリマ」を開始。他社との競争が加熱する気配を見せているが、高橋社長は「当社は提携レストランへの『レストランマネジャー』への提供など、技術力を生かしたサービス展開が強み」と話す。「配車サービスの知名度を生かし、訪日外国人客を獲得できている点もポイントだ」という。

photo 競合サービス「LINEデリマ」

 さらなる顧客獲得に向け、年内にも横浜市でサービスを開始する予定。

 ただ、その後の展開については「さまざまな都市に手を広げることがベストとは限らない。1つの都市にコミットして充実度を上げることも重要だ」(高橋社長)という。「18年以降は関東以外の地域への進出も検討しているが、既に進出している地域とのバランスをみながら決断したい」(同)と話している。

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