ロボットが宇宙空間で衛星を組み立て、修理する時代が来た宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)

» 2017年10月06日 07時00分 公開
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ロボットアームで衛星を組み立て

 2社目が航空宇宙大手の米Space Systems Loral(SSL)が推進する軌道上での静止衛星組み立てプログラム「Dragonfly」だ。Dragonflyは長さ3.5メートルのロボットアームを持つシステムで、アームの先端で物体を握ったり、移動したり、操作することが可能だ。具体的には衛星アンテナの設置や衛星自体の組み立てができる。

 2017年9月にはカリフォルニア州にある同社施設において実証試験として、模擬静止衛星へのアンテナ反射器の設置などが行われた。今後、18年中にはさらなる実証を行い、アーム自体の滑らかな動作や、精密な調節ができるようにするなど作業過程と性能の改良を目指す。将来的には3Dプリンティング技術も統合することで、必要に応じて新しいアンテナや反射器などを製造する機能も確保し、衛星が損傷を受けたり、寿命を終えるときにはエンジニアが遠隔操作で部品の除去、リサイクル、入れ替えをできることを目指すという。

Space Systems Loralによる軌道上での静止衛星組み立てプログラム「Dragonfly」イメージ(出典:NASA、SSL) Space Systems Loralによる軌道上での静止衛星組み立てプログラム「Dragonfly」イメージ(出典:NASA、SSL

 3社目が、同じく航空宇宙大手の米Orbital ATKが進める軌道上でのロボットによる組み立てサービスのための商業インフラ構築プロジェクト「Commercial Infrastructure for Robotic Assembly and Services (CIRAS)」だ。同社ではプロジェクトの核となる組み立てロボット「NASA Intelligent Jigging and Assembly Robot(NINJAR) 2.0」の地上実証を今年8月に行った。

 具体的には同ロボットを使い、バラバラの支柱および結節点部材を使って立方体のトラス(部材の節点がピン結合なっており、各部材が三角形に組まれた骨組みの構造物)を組み立てるというものだ。NASAのプロジェクトマネージャーであるチャールズ・テイラー氏によると「実証実験では全10回とも成功基準をクリアしただけでなく、来年想定されているより厳しい地上実証の成功基準にもかなり近づいた」とのことだ。

19年には商業サービスもスタート

 こうした要素技術の開発とともに、既に商業サービスに向けた動きも始まっているのだ。SSLの親会社であるの米SSL MDA Holdings(カナダの情報通信ソリューションプロバイダー企業MDAの米国拠点)は今後軌道上サービスを行うために米Space Infrastructure Servicesを今年6月に設立済みだ。

 具体的には、衛星運用事業者に対して、保有する衛星の点検修理や推進剤補充による寿命延長、部品交換等による衛星の機能強化、質量やサイズ制限の問題で打ち上げられない大型衛星の軌道上での部分的な組み立てなどをサービス提供する予定だ。

 同社は最初の寿命延長ミッションおよび複数の追加ミッションを実施する契約をルクセンブルクの衛星通信大手企業SESと締結した。最初の商業顧客となった同社CTO(最高技術責任者)のマーティン・ハーウェル氏は「軌道上サービスは通信衛星の次世代アーキテクチャの根幹的要素になり得る」と語っている。

 また、先述のOrbital ATKも、軌道上の静止衛星の運用寿命延長サービスを検討しており、そのための専用機「Mission Extension Vehicle(MEV)」の初号機を18年に打ち上げ、その後、軌道上実証を実施。19年第2四半期には衛星通信大手Intelsatの衛星に対して、5年間の衛星寿命延長サービスを行うという。MEV自体の寿命は15年間を想定しており、その間に多数の寿命延長サービスなどを行う予定だ。

 このように、宇宙空間におけるロボットを使った構造物の製造、組み立て、点検、修理等の技術が急速に進展している。今後の動向に注目したい。

著者プロフィール

石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、15年のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。

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