マツダCX-8 重さとの戦いを制した3列シートの復活池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年10月23日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

フラッグシップであるために

 さて、かくしてマツダの新世代3列国内モデルの骨子は決まった。問題はその重量だ。FF6人乗りの最軽量モデルで1780キロ。最も重い4WDの19インチホイールにルーフレール付きだと1900キロにもおよぶ。ざっくり言ってCX-5より200キロ重い。SUVのフラッグシップという位置付けから言えば、動力性能と静粛性でCX-5に劣るわけにはいかない。もちろんこのご時世に「燃費はちょっと……」で許されるわけがない。

 そこでマツダは、自慢のSKYACTIV-D 2.2をさらに進化させた。マツダが強調するのは、動力性能上乗せのための車種別チューニングではなく、SKYACTIV-Dの正常進化だという点である。マツダがずっと言ってきたコモンアーキテクチャの年次改良という見地からすれば、やがてCX-5の年次改良でも採用されると思われるその内容は大きく見て2点。第1は、従来から大小2つのターボを備えるSKYACTIV-Dの大きい方のターボユニットを、可変ジオメトリーターボに代えた。一言でいえば過給範囲の拡大であり、狙いは中速域のトルクアップと高回転での出力向上だ。

エンジンはCX-5などで好評の2.2リッターディーゼルターボ。従来型でもディーゼルエンジンのベストユニットだったが、今回さらに改良が加えられたという。試乗が楽しみである エンジンはCX-5などで好評の2.2リッターディーゼルターボ。従来型でもディーゼルエンジンのベストユニットだったが、今回さらに改良が加えられたという。試乗が楽しみである

 騒音と燃費を改善するために採用したのは新しい燃料噴射システムだ。一般的にディーゼルエンジンは数回に分けて燃料噴射を行う。従来型のSKYACTIV-Dでは4回に分けた燃料噴射を行っていたが、新しいインジェクターではこれを5回に増やした。増えたから偉いという話ではない。実はインジェクターは噴射終わりでノズルを閉じる際に不具合が起きる。マツダのエンジニアは「水道の蛇口をゆっくり閉めると最後にボタボタと垂れますよね? あんな感じになるんです」と説明する。それでは5回にしたらもっと悪くなるではないか? 実は順序は逆で、5回噴射にしたのは、インジェクターの性能が向上したからだ。「応答性」つまりは吹き始めや吹き終わりのキレが良く、「ボタボタ」がほぼ起きないインジェクターが開発されたのだ。

 もう1点、従来はインジェクターの能力限界で、噴射と噴射の間にどうしても1万分の1秒ほどのインターバルが必要だった。新しいインジェクターではこれもほぼなくすことができた。つまり「ボタボタ」と「お休み」の心配がなくなって、全体としてはより短時間に意図通りの噴射ができるようになった。燃焼圧で見ると、これまで1回の燃焼に3回の燃焼圧ピークがあったのを、1つにつなげることができるようになった。

従来から大小2つのターボを備えるSKYACTIV-Dの大きい方のターボユニットを、可変ジオメトリーターボに代えた。タービン周囲の羽根を動かすことでタービンに当たる排気の流速を変える仕組み 従来から大小2つのターボを備えるSKYACTIV-Dの大きい方のターボユニットを、可変ジオメトリーターボに代えた。タービン周囲の羽根を動かすことでタービンに当たる排気の流速を変える仕組み

 燃費のためにはピストンが上死点にあるとき、速やかに燃焼を行い、それによってピストンにより大きな力を加えたい。だが瞬間的にとがった高いピーク値が不連続に発生すれば当然音がうるさくなる。新しいインジェクターの採用によって、このピークを突出させずになだらかにつなげつつ、トータルの燃焼時間を短縮したのである。

 これらの改良によってエンジン騒音を低減し、低中速の燃費が向上した。可変ジオメトリーターボの採用と合わせて、CX-8は車重200キロのハンデを持ちながら、加速能力も燃費もほぼCX-5並みに引き上げ、しかもフラッグシップらしい静かなエンジンに仕上げたとマツダは胸を張る。

青い線で描かれているのが旧来の噴射制御。インジェクターの休止時間が谷間となって現れる。改良された新型の赤い線では山は1つに集約され、時間も短縮される 青い線で描かれているのが旧来の噴射制御。インジェクターの休止時間が谷間となって現れる。改良された新型の赤い線では山は1つに集約され、時間も短縮される

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