ここが間違い! “本気”の働き方改革とは?脱・昭和のビジネスモデル(1/2 ページ)

» 2018年01月16日 06時00分 公開
[ITmedia]

 2017年の重要ワードとなった「働き方改革」。しかし、「うまくいっている」という実感は乏しいのが現状だ。特に、日本経済を支えている中堅中小企業にとっては、改革を実行するためのリソースが十分にあるとはいえない。

 働き方改革を巡る悩みに対してヒントを提供するため、ITmedia ビジネスオンラインとITmedia エンタープライズ共催のセミナーイベント「ビジネスを加速する『ITと働き方改革』カンファレンス 中堅中小企業から変える、日本の働き方 〜いま、そして2020年に向けて〜」が17年12月に開催された。

 基調講演を務めたのは、働き方改革の第一人者として知られる白河桃子氏。少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大学客員教授として活躍する白河氏は、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員なども務める。経営者が「昭和のビジネスモデル」から脱し、真の改革を実現するための理論と考え方を解説した。

photo 働き方改革の第一人者、白河桃子氏が本気で改革に取り組むための考え方などを解説した

誰が経営者を本気にさせるのか

 白河氏の講演テーマは、近著タイトルでもある「御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減でも伸びるすごい会社」。企業が働き方改革に取り組むためにポイントとなる「リーダーシップ」や「インフラ整備」「マインドセット」について解説した。特に中小企業にとっては、「職場が楽しいか?」「成果が上がり、それが社員の幸せになっているか?」というマインドセットの部分が重要だという。

 まず、「誰が経営者を“本気”にさせるのか」と問いかけた白河氏。「どうしたら経営者を本気にさせられるのか」と嘆く声は多いという。ITリテラシーが低く、資金繰りで精いっぱい、社員とも対話していない経営者が本気で働き方改革に取り組むためには、社内のキーパーソンが必要だ。

 そこで白河氏は、三重県の調剤薬局(従業員数64人)の事例を紹介。その企業では人事担当の女性社員が社長の意識を変えることに成功した。ITリテラシーが低い社長の下ではすんなりとITを導入することができないと考えた彼女は、まずは自分が社長に「役に立つ社員」と思ってもらうことを目指す。銀行口座を整理して、社長の業務負担を減らした。信頼の地盤を固めた上で、税理士や銀行など外部の関係者を巻き込んでIT投資を実施。さらに、社員の意識調査によって、社員が抱く本当の不満を明らかにした。それが社長を動かす力になった。

生き方を変えるチャンス

 ここで白河氏は働き方改革の真の意義を説く。「働き方が変わると暮らしも大きく変わります。言い換えると、働き方が変わらないと暮らしも変わらないのです」と強調した。

 どういうことか。私たちは、社会の変化に伴って働き方、暮らし方を変える必要に迫られているのだ。生産年齢人口が増えていた「人口ボーナス期」は大量生産の時代。均質な人たちが一律に長時間働き、女性が育児をして、男性が稼ぐ「ワンオペ」が効率的だった。しかし、養われる従属人口に比べて生産年齢人口の比率が減っていく「人口オーナス期」は、付加価値の高い商品を生み出すための多様性が重要となる時代。多様な人が多様な場所や時間で働くことが必要となる。そうなると、ワンオペでは回らない。男女ともにチーム育児、チーム稼ぎという体制が効率的になってくる。

 暮らし方の変化に伴い、働き方は一律から多様へ、労働時間は量から質へ、そして他律的な働き方から自律的な働き方へと、変化する必要があるのだ。白河氏は「皆さんにとっての働き方改革とは何でしょうか。経営者にとっては経営課題。個人にとっては、生き方を変えるチャンスでもあるのです」と語りかける。

人材の損失を防ぐ

 一方、働き方改革で経営者が気にするのは「もうかるのか?」という視点。白河氏は「もうかる、ということではなく、損失を防ぐという意味でとても重要」だと指摘する。

 改革を実践して成果を出している事例として挙げたのが、リクルートスタッフィングだ。同社は評価軸を「時間当たりの生産性」にし、一定の時間内に出さなかった結果は社内表彰の選考対象にしないことにした。すると、短時間勤務の子育て社員のモチベーションが向上。1日当たりの労働時間は2年で3.3%減少し、1時間当たりの売上生産性は4.6%向上した。さらに、女性従業員の出産数は1.8倍にもなったという。

 また、冒頭で紹介した三重県の調剤薬局運営のエムワンは、合同就職説明会で自社ブースに学生が1人も来なかったことがきっかけで改革に乗り出した。業務体制の見直し、スキルの洗い出しと全体のレベルアップに加え、職場の意識や雰囲気を変える取り組みを実施。スキルアップの効果で2015年の売上高は前年比2.3倍に。従業員の出産数は2.5倍になった。さらに、採用エントリー数は33人から168人へと、5倍に増えたという。

 このような事例から、働き方改革は損失を防ぐ効果があることが分かる。特に地方の中小企業にとっては、人材流出による損失は大きい。新規人材を獲得しようとしても内定辞退が多く、コストがかさむ。「今いる人たちが辞めないで、それぞれの立場でそれぞれの能力を生かして働いてくれることが重要なのです」と白河氏は語る。

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