AppleのiCloudデータ、中国移行に懸念の声当局の悪用懸念(2/3 ページ)

» 2018年03月06日 16時28分 公開
[ロイター]

<警察に広汎な権限>

アップルによれば、合弁事業を組んだからといって、中国がユーザーデータに対する「バックドア」を得るわけではなく、暗号化キーを管理するのも提携企業ではなくアップルのみだ。だが、中国人顧客は最初から何かが違っていることに気づくだろう。彼らのiCloudアカウントには、共同ブランドとして提携企業名も併記される。

アップルの製品やサービスでは初めてのことだ。

中国で発売されるiPhone(アイフォーン)には、端末自体へのアクセスを(アップルも含め)誰に対してもほぼ不可能にするセキュリティ機能が残されているが、iCloudはその対象外だ。中国当局がアップルに対し法的な命令を提示すれば、iCloudアカウント内のあらゆる情報にアクセスできるようになる。

アップルは、司法による適切な請求以外には対応しないとしているが、中国法の専門家によれば、同国の司法プロセスは米国とは大きく異なっており、独立裁判所によってチェックされる米国式「令状」に似たものは存在しないという。中国の法律では、裁判所の承認は必要なく、警察が令状を発行し、それを執行することができる。

イェール大学ロースクールのポール・ツァイ記念中国センター(北京)の研究員ジェレミー・ドーム弁護士は、「刑事捜査のごく早い段階から、警察は証拠収集のための広汎な権限を与えられている」と言う。「独立した裁判所によるチェックではなく、警察内部の手続きによって権限を与えられ、市民はこれに協力する義務がある」

雲上貴州大数据産業発展と中国のサイバーセキュリティを担当するテクノロジー業界担当当局にコメントを求めたが、回答は得られなかった。貴州省政府は、特にコメントすべきことはないと回答した。

中国にも実際には令状取得に関する規則が存在するものの、そのいずれに違反しても罰せられることはほとんどない。またデータのプライバシー保護に関する法律もあるが、当局が犯罪行為について捜査する場合には幅広い例外が認められている。

そうした犯罪行為には、共産主義的な価値観を損なうこと、オンラインでの「挑発行為」、またインターネット閲覧のためにVPN(仮想プライベートネットワーク)を利用することまで含まれている。

アップルによれば、中国で保管される暗号化キーは中国人顧客のデータに関するものに限定されており、中国当局が米国など他国のデータを解読するために、暗号化キーを使うようアップルに請求することはできないという。

プライバシー問題に詳しい弁護士は、今回の変更は中国人顧客の保護という点では大幅な後退だと懸念を漏らす。

電子フロンティア財団のカミーユ・フィッシャー氏は、「令状が必要であり、それが正しく執行される限りにおいて、米国基準が最もプライバシーをよく保護するものだ」と語る。

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