情緒たっぷりの「終着駅」 不便を魅力に転じる知恵とは杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2018年03月23日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 「終着駅」という言葉は情緒が付きまとう。行き止まり、人生の終着駅、最果ての街、もう逃げ場がないという、切羽詰まった感情だ。歌謡曲も、文学も、国内外の映画も、おしなべて哀愁が漂う。目指すところという意味で目的地でもあるけれど、ほとんどの場合、終着駅は「終わり」であって「上がり」ではない。なんとなく尻すぼみな印象が否めない。結婚は恋愛の終着駅、夫婦の人生の始発駅、なんて言ったりする。鉄道好きとして冷静に考えると、それって「折り返し」ってことだよね、と思うけれど、まあいいか。

 実際の終着駅は行き止まりだけではない。東京発の新幹線「こだま」の終着駅は名古屋や新大阪などで行き止まりではないし、東急東横線の下り方面の終着駅は横浜で、上り方面の終着駅は渋谷だ。ただし、ほとんどの列車はその先の路線に直通する。だから、列車や路線の場合、終わりの駅は「終点」と呼ぶ。「終着駅」はやっぱり文学的、情緒的な意味が強い。

photo 2016年に廃止となったJR北海道留萌本線の増毛駅(2012年当時)

終着駅は非効率

 その、情緒たっぷりの「終着駅」は、鉄道事業者にとっては厄介な駅だ。営業上も、列車の運行においても。

 営業面でいえば、終着駅は乗客が少ない。しかも時間帯によって降車が多いか、乗車が多いか、あるいは、どちらも少ないかだ。鉄道会社にとって利益の大きい駅は、乗車も降車も満遍なくある駅だ。線路の両端が終着駅になっている場合、A駅がベッドタウン、B駅がオフィス街とすれば、朝はA駅からB駅へ、夕方はB駅からA駅へ乗客が発生する。逆方向の乗客は極端に少ない。それでも折り返して往復させるから、乗客が多い方向は4両編成にして、少ない方向は2両編成にしよう、なんて運行はできない。

 終着駅を活性化させる方法は2つある。1つは、需要を生み出す施設を誘致し、乗客を発生させる方法だ。大手私鉄の多くはこの方法をとった。学校の誘致である。ベッドタウン付近に大学キャンパスや高校ができると、通勤客とは逆方向の通学客が発生する。学校側も、学生を通勤ラッシュに遭わせたくないし、土地代が安く広い敷地を確保できるため、郊外へ移転する。好景気で都心部の地価が上がったときは、企業も営業部門以外の部署を郊外へ移転させる事例があった。鉄道会社にとって、需要が分散してくれたら大助かりだ。

 もう1つの解決策は、延伸などで他の路線と接続する方法だ。他の路線に乗り換えができれば、乗換駅へ向かう需要が発生する。つまり、終着駅そのものを解消するわけで、終着駅の活性化という趣旨ではない。他の路線と接続して、単独の終着駅にしない。これは鉄道経営のセオリーかもしれない。大手私鉄の路線図を見ると、他の路線と接続していない、徒歩でも連絡しない終着駅は意外と少ない。

photo 東急電鉄の路線図。8路線のうち、他の路線と接続しない単独の終着駅は「こどもの国」だけ。ちなみに、こどもの国線は横浜高速鉄道が保有し、東急電鉄が運行する「上下分離型」の路線だ(出典:東急電鉄公式サイト
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