自己中心的! “思惑”が見え隠れする「えこひいき」路線図あなたの知らない路線図の世界(2/2 ページ)

» 2018年04月09日 07時00分 公開
[井上マサキITmedia]
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鉄道会社グループ施設の「えこひいき」

 目的地だけでなく、その経路も併せてアピールしているのが「鉄道会社グループが運営する施設」の路線図だ。自社の鉄道やバスを利用してもらうため、路線図の中に「えこひいき」が起きている。

 東武グループである、東京スカイツリーのWebサイトに掲載されている路線図を見てみよう。東武スカイツリーラインや東武東上線などの東武鉄道のほか、直通バス「スカイツリーシャトル」の路線も記載されている。和光市やお台場、東京ディズニーリゾートから、バス1本でスカイツリーまで行けることを、路線図上でアピールしているのだ。

東京スカイツリー(東京都墨田区) Webサイトより

 西武ゆうえんちの路線図は、周辺を走る西武鉄道各線をくまなく掲載。新秋津駅から徒歩5分の距離にある、秋津駅も乗換ポイントとして記載されている。西武ゆうえんち最寄り駅の遊園地西駅と西武遊園地駅で出迎えるのは、マスコットキャラクターの「BooBooマン」だ。

西武ゆうえんち(埼玉県所沢市) Webサイトより

 大阪府枚方市にある遊園地・ひらかたパークは、京阪電鉄グループが運営している。京阪電車が他の路線よりも大きく太く描かれており、えこひいきもここまで来るとすがすがしさを覚えるほど。東京−京都−新大阪間は普通なら東海道新幹線で結びたくなるが、JR高槻駅から京阪バスが使えることをアピールしたいので、「JR東海道線」としていることにも注目したい。

ひらかたパーク(大阪府枚方市) Webサイトより

自己中心的の究極系「マンション路線図」

 企業が作った路線図は「自己中心的」「えこひいき」という性質がある。この性質を最もよく表しているのが、マンションや住宅分譲地のチラシに記載されている路線図だろう。

シティテラスひばりヶ丘(東京都西東京市) Webサイトより

 これまで見てきた路線図は、商業施設など目的地に「到着」するための路線図だった。対してマンションや住宅分譲地の路線図は、自宅から「出発」する路線図である。アピールポイントも変わり、最寄り駅までの近さや、ターミナル駅までのアクセス、少ない乗換回数でたどり着ける主要駅の多さなど、「家から近い」「どこでも行ける」ことが重要になる。

千葉県の袖ケ浦にある宅地分譲地の路線図。東京や川崎へつながるピンクのラインは電車ではなく高速バス

 マンションのブランディングに合わせるため、路線図のデザイン性が高まるのも特徴の1つだ。「Brillia高輪TheHouse」の路線図は、品川駅を山手線の中心におき、南北線を中心にシンメトリーになるよう駅を配置している。最寄り駅アピールのため、品川駅と五反田駅がとても近くなっているのも見どころである。

Brillia高輪TheHouse(東京都港区) Webサイトより

 レコードレーベルに例えるなら、鉄道会社が作った路線図は「メジャー」であり、企業が作った路線図は「インディーズ」だ。インディーズ路線図は企業の数だけデザインが異なるもの。「なぜこのデザインなのか」に思いを巡らせれば、ターゲット層やブランディングといった「深層心理」が見えてくる。

井上マサキ氏のプロフィール:

 1975年宮城県石巻市生まれ。大手SIerでシステムエンジニアとして15年勤務したのち、フリーライターに転身。IT、お笑い、育児など幅広く執筆する傍ら、路線図研究家としても活動。メディア出演のほか、ライター西村まさゆき氏とのイベント「路線図ナイト」では毎回100人超の観客と国内外の路線図を愛でるなどしている。好きな路線図はロンドン地下鉄、プラハ地下鉄、福岡市交通局。公式サイト:inoue-masaki.com


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