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» 2018年05月28日 06時30分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:ようやく発表されたトヨタとスズキの提携内容 (1/3)

ここ数年、トヨタはアライアンス戦略に余念がない。自動車メーカーやサプライヤーにとどまらず、IT業界やサービス産業、飲食業など異分野との協業関係を構築している。こうしたトヨタの変化に敏感に反応したのがスズキの鈴木修会長だった。

[池田直渡,ITmedia]
16年10月12日。トヨタ自動車の豊田章男社長(左)と、スズキの鈴木修会長。業務提携に関する協議を開始するに際しての記者会見にて 16年10月12日。トヨタ自動車の豊田章男社長(左)と、スズキの鈴木修会長。業務提携に関する協議を開始するに際しての記者会見にて

 ここ数年、トヨタ自動車はアライアンス戦略に余念がない。自動車メーカーやサプライヤーのみならず、マイクロソフトのようなテック企業やアルベルトのようなデータエンジニアリング会社、小売のアマゾン、サービス産業のウーバー、飲食業のピザハットに至るまで提携や協業関係を構築している。

 企業間の話だけではない。エンジニアに関してもそうだ。トヨタのAI(人工知能)研究を担うTRI(Toyota Research Institute,)のCEOとして、ロボット技術のカリスマであるギル・プラット氏を迎え入れた。米国防高等研究計画局(DARPA)のロボットプロジェクトの頭脳を務めた人物である。あるいはGoogleの自動運転をけん引してきたジェームス・カフナー氏もそうだ。カフナー氏は前述のTRI日本法人のトップを務めることになった。

トヨタの変貌

 なぜそんなことが起きているのかと言えば、トヨタの提携の形が変わったからだ。大が小を飲み込む吸収的合併ではなく、もっとオープンで、提携相手へのリスペクトを前提とした提携へとトヨタは舵を切った。別に良い人ぶりたいわけではない。その方が得るものが多いことにトヨタは気付いたのだ。

 カフナー氏の例を見れば明らかで、氏の前職はGoogleのエンジニアだ。Googleは2016年に、その自動運転開発部門を分社化し、Waymo(ウェイモ)として独立させた。株主に対して自動運転部門の独立採算を明確化するためである。しかしながら市場に投入されていない自動運転が現時点で黒字化するはずもなく、そんなことをすれば研究開発費が圧縮され、自由な研究ができなくなる。自由な研究を求めたカフナー氏はトヨタへと移籍し、望むものを手に入れた。

CESで公演するTRIのCEOギル・プラット氏。トヨタはAI開発のカリスマを次々とスカウトし、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)に備える CESで公演するTRIのCEOギル・プラット氏。トヨタはAI開発のカリスマを次々とスカウトし、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)に備える

 トヨタがなぜ、そんな大尽な振る舞いを見せるのか、そこをトヨタに聞くと「オープン」がキーワードだと言う。トヨタは長らく自前主義の伝統を持っており、全てを自社で開発し、外部に依存しない方針を貫いてきた。徳川家康以来の三河の風土もあるのだろうが、倹約質素を旨として一所懸命の場に備えることを重視してきた。

 ところが、それが通じなくなった。近年のトヨタはその逆のことを言うのだ。自社だけでいくら頑張ってもトライ&エラーのデータ獲得には限界がある。あるいは資本支配によって効率良く正解だけ獲得しても、それは条件が1つ変われば崩壊してしまう。そこで真の実力となるのは「どうやると失敗するのか」あるいは「なぜそれが正解なのか」という膨大な蓄積データなのだ。

 だから先行している会社や研究機関、研究者とコラボレートして、彼らのトライ&エラーのノウハウを丸ごと共有することを目論んでいる。前述のカフナー氏で言えば、自動運転を実現するための正解のみに価値があるわけではなく、そこに辿り着くまでに行なった膨大な試行錯誤ごと価値だと考える。そのためなら自由な研究環境くらい提供するのは全くやぶさかではないだろう。

 しかも驚くべきことに、トヨタはそうして達成した技術そのものもオープン化すると言う。例えばトヨタがマツダ、デンソーとともに立ち上げた電気自動車(EV)の開発会社EV C.A. Spiritでは、クルマ側のバッテリーに対する要求性能と、バッテリー側の性能を標準化しようとしている。コンピュータで言えばUSB規格のようなもので、差込口の形状、データの形、電圧と電流の定格化などの基準を設け、USBのバージョンさえ合っていれば、どんな機器でも接続することができる。その社名に含まれる「C.A.」とはコモンアーキテクチャのことで、まさにバッテリーと車両の関係を標準化してコモンアーキテクチャ化する計画である。

 そしてここで作られた規格は完全にオープンにして、誰もが使えるようにするのだと言う。規格に則ったバッテリーと車両なら互換性が保たれる。つまり彼らが手間暇をかけて研究し、作った規格にタダ乗りして互換品を生産することも可能になる。

 「それは敵に塩を送る行為ではないのか?」と問うと、「規格そのものは普及した方が良いんです。それを開発する間に得たノウハウは、規格だけ見ても分かるわけじゃありませんから」と言う。

 こういうトヨタの変化に敏感に反応したのがスズキの鈴木修会長で、フォルクスワーゲンとの提携で相手の豹変によって完全支配されそうになるという手痛い失敗をしながら、今のトヨタなら大丈夫とばかり提携を申し入れた。独立独歩の気概が強いスズキにしても、やはり自前ではもうグローバルを戦えないことは自明だった。大トヨタですら、オープン化によって外部ノウハウを導入しようとしている時代に、スズキをスズキらしく残しながらどこの陣営に参加するかを考えれば、答えは1つしかなかったのだろう。

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