名車の引退を惜しむ スズキ・ジムニー池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2018年04月02日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 2月、スズキ・ジムニーが引退した。直接の理由は道路運送車両法改正による「横滑り防止装置」の義務付けだ。この2月からついに軽自動車の継続生産モデルもこれが装備されていないクルマは販売ができなくなった。

45年間をたった2回のモデルチェンジで乗り越えてきたジムニーがついにフルモデルチェンジを迎え、現世代モデルが引退した 45年間をたった2回のモデルチェンジで乗り越えてきたジムニーがついにフルモデルチェンジを迎え、現世代モデルが引退した

メートル原器

 筆者がクルマに乗るとき、メートル原器のように基準にしているクルマは3台ある。メルセデス・ベンツEクラス(W124)、スズキ・ジムニー、MGB。W124やMGBは現在の基準で見るといささか古臭いが、基本となる部分で言えば、今でも素晴らしい。今回唯一現役モデルであったジムニーが引退し、これですべてが過去のモデルになった。

 ジムニーについてはディープなマニアがたくさんいて、筆者ごときに彼らを満足させる記事が書けるとは思っていないが、世の中にはジムニーを知らない人がたくさんいるのもまた事実。そういう人に対してもう一度現代の名車としてのジムニーを知ってもらいたいというのが今回の趣旨である。

 まずは華々しい話から入ろう。ジムニーはジープ型の軽自動車である。それはそうなのだが、軽自動車だからと言ってあなどるならばそれは違う。世界のクロカン(クロスカントリー)4WDの原点は1940年に米軍の要請で開発されたウィリス社の本家ジープである。これに影響を受けて48年に造られたのが英国のランドローバー、その発展型がレンジローバーであり、これら先達によってジャンルが確立された後に登場したのがベンツのGクラスである。これら3台はクロカン4WDの頂点に君臨するいずれ劣らぬツワモノぞろいで、自動車としてもっとも過酷なフィールドを踏破できる能力を持っている。そしてそういう使い方をするユーザーたちに敬意を持って迎えられるだけの性能をジムニーは持っている。

 密林の吊り橋や、岩山の山肌に作られた隘路の中には、世界中の自動車の中でジムニーしか走れない場所がある。小さく軽いボディでありながら、世界屈指の踏破能力を持つクルマ。ジムニーはツワモノたちと並んで、あるいは、時に凌駕さえする世界の名車として唯一無二の存在なのだ。

 ただし、これはジムニーの一面に過ぎない。普通の人は密林にも岩山の隘路にも行かない。筆者が本当に伝えたいのは街乗りの乗用車としてのジムニーの素晴らしさである。

街乗り乗用車としてのジムニー

 ジムニーは、今時ハシゴ型の独立フレームを持つ4WDである。構造的にはトラックと同じ。2本の鋼材が前後を貫き、それにところどころ「はり」が渡されていてハシゴのような形状を持っている。余談だが、普通のクルマは、モノコック構造と言って、卵のカラのように、あるいは昆虫の外骨格のようにボディそのものがフレームになっている。

世界のクロカン4WDの中でも唯一無二の走破性を持つジムニーだが、街乗りでの素性もピカイチである。写真は特別仕様のランドベンチャー。価格は158万円 世界のクロカン4WDの中でも唯一無二の走破性を持つジムニーだが、街乗りでの素性もピカイチである。写真は特別仕様のランドベンチャー。価格は158万円

 これに660ccのDOHC3気筒インタークラー付きターボエンジンを縦置きで搭載し、4WDまたはFRを切り替えて駆動する。切り替えはセンターコンソールに設けられたスイッチで行う。舗装路を日常的に使うとき、選択すべきは当然FRモードで、そうやって街中を走っていると、世界屈指の踏破性能に似つかわしくない上質な乗用車である。

 すべての動きが自然だから、もし筆者のこの記事を読んで乗ってみた人がいても、もしかしたら疑問符が点灯するかもしれない。しかし、例えば人間が自分の足で歩くとき、いちいち「おー、すげー!」と思わないように、本当に優れたクルマは、運転してすぐに驚くような濃い味付けにはなっていない。平々凡々で普通。その普通さこそが非凡の証である。

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