軽じゃないハスラー、スズキ・クロスビー池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2018年01月29日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
都会的かつアウトドア。そういう形を求められるSUVのデザインはなかなか難しい。クロスビーが市場の支持を得られるかどうかはなかなか興味深い 都会的かつアウトドア。そういう形を求められるSUVのデザインはなかなか難しい。クロスビーが市場の支持を得られるかどうかはなかなか興味深い

 スズキは2017年12月25日に、小型クロスオーバーワゴン「クロスビー」を発売した。

 スタイルを見て分かる通り、軽自動車でヒットを飛ばしたハスラーのサイズを大きくして登録車(軽以外)サイズに仕立て直したモデルだ。

 スズキ自身の説明によれば、「ワゴンのスペースとSUVのワクワク感を併せ持つ」ということになるらしい。ワクワク感は若干抽象的で意味が分かりにくいが、スズキの説明を根気よく聞いていると、要するにスタイルとマルチ路面での走行性能ということのようだ。

 筆者が見る限り、一番の訴求ポイントとなり得るのはサイズで、軽を別とすれば国内最小SUVになる。現在BセグメントSUVは、スバルXV、日産ジューク、ホンダ・ヴェセル、マツダCX-3と花盛りだが、クロスビーは全長・全幅ともクラス最小である。

クロスビー3760×1670

XV 4465×1800

ジューク 4135×1765

ヴェゼル 4295×1770

CX-3 4275×1765

※単位はミリ

 こうして並べるとボディサイズがシャシーの出自に大きく左右されているのが分かる。Cセグのインプレッサのシャシーを使うXVは最も大きく、マーチ、フィット、デミオをベースとするジューク、ヴェゼル、CX-3はほぼ横並び、Aセグメント用シャシーを持つクロスビーはそれらに比べて圧倒的に小さい。4メーターを切るのはクロスビーだけだ。

ワゴンの収納力を備えるSUVという発想はこのクラスでは多くない。競合モデルの多くがクーペ的空間構築だからだ ワゴンの収納力を備えるSUVという発想はこのクラスでは多くない。競合モデルの多くがクーペ的空間構築だからだ

 車庫に2台縦列に入れたいから全長に制限があるとか、自宅が狭い路地の奥にあるとかの場合、大きなアドバンテージになるだろう。ただし、全高は1705で、立体駐車場は自由に使えない。これはSUV系すべての問題ではあるが。

 スズキの国内販売の方針としては、やはりビジネスの絶対的中心は軽自動車にある。しかしながら軽自動車はすでに過当競争が飽和値に達した状態で、これ以上軽で台数を積み増していくのは難しい。だからこそ登録車で売り上げを増やすしかない。ヒット作のハスラーを登録車サイズにすれば売れるだろうということは、その性格上容易に予想できるので、登録車の増販を狙う戦略車としてクロスビーが登場したと読み解くのが順当だろう。

 以前からハスラーのBセグモデルが出るといううわさは伝えられてきたので、クロスビーの登場は不思議ではなかったが、ハスラーがヒットモデルであるだけに、ジムニーの登録車バージョンであるジムニー・シエラのように名前を生かしてペットネームを付ける手法を取っても良かったのではないかと思う。スズキに尋ねると、「以前、軽自動車をそのまま拡大して失敗した苦い経験がありまして……」ということだ。

 言われてみればクロスビーはハスラーの面影を宿しながらも、全体イメージはハスラーと同一ではない。コスプレ・クロカン的なハスラーに対して、ディテールの各部が都会的に仕立てられており、あちこちにシティ派っぽさが見え隠れする。何となくミニのイメージを狙っているようでもある。

 さらに基調的にレトロ感を意識したハスラーとはデザイン手法も違う。その分雑味と言うか、どこかすっきりしない感じも受ける。クロスオーバーという立ち位置がそうさせる部分もあるのだろうが、かつて鈴木修会長が、開き直って「軽は貧乏人のクルマ」と正々堂々主張した潔いスズキにしてはどこか上目遣いなドレスアップ感があるのだ。これが吉と出るか凶と出るかは何とも言えないが、うまくいけばスズキの新たな一面を切り開くことになるし、ダメならやっぱりスズキらしくなかったと言うことだろう。

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