コナカの「Tシャツのように洗えるスーツ」は、こうして生まれた夏目の「経営者伝」(1/5 ページ)

» 2018年06月18日 07時00分 公開
[夏目人生法則ITmedia]

プロフィール:湖中謙介(こなか・けんすけ)

 1960年、大阪府生まれ。82年にコナカ(当時の日本テーラー)へ入社、84年神戸大学法学部を中退。'91年取締役へ就任し、99年に常務取締役、2003年に専務取締役へ就任。05年から現職。紳士服のフタタ、KONAKA THE FLAGなど多業態を展開し、連結売上高約700億円の企業を率いる。


 「実は私、たびたび同じ悪夢を見るんですよ」

 コナカ社長の湖中謙介氏が話す。いったいどんな闇を抱えているのか?

「1日待っていても、お客さまが1人もいらっしゃらないんです。そして『これではみんなが路頭に迷う、社員や取引先の方にどうお詫びすればいいのか!』とうなされて目を覚ますんです。お客さんが『これしかないのか』『これ、前に買ったよね』とつまらさそうな顔で帰ってしまうバージョンもあります」

 そして2014年、彼がうなされるほど怖れていることが現場で起こった。

 湖中氏の趣味は、店員としてお店に立つこと。コンビニで社長がレジを打っていたら驚くが、これも彼なりの“探索”なのかもしれない。そして、300着ほど吊してある中型店で接客していたときのことだ。

 「お客さまが、何着か試着されても表情がさえず、帰ろうとするのです。私は名刺をお渡しし『どのような品があればよかったか、お聞かせいただけませんか?』とお願いしてみました」

株式会社コナカが運営する「DIFFERENCE」は六本木、表参道など、一等地にも続々進出している

 お客さんは「社長!?」と目を丸くし、忌憚(きたん)ない意見をくれたという。いわく「自分にぴったりなモノがなかった」「形も、色も、うまくいえないけど、どこか違った」らしい。決して示唆に富んだ言葉ではないが、湖中氏にとっては、深く考え込むきっかけになった。何しろ、悪夢に似ている。しかも彼には、何か刺激を受けたら考えこむクセがあった。

 そして、他業界の人間が聞いたらコケるほど当たり前の事実を見出した。彼が真剣な顔をして話す。

「これが非常に重要な気付きだったんです。大型店をつくってスーツを1000着吊して、1着売れたとします。これ、残りの999着はなくてもよかったんですよ」

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