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ウォルマートの日本撤退から東京一極集中を批判する小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)

» 2018年08月22日 07時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 最近の流通関係の話題といえば、何といっても米ウォルマートが西友を売却し、日本から撤退するという報道であろう。

 ウォルマートとしては、店舗小売業への投資を見直し、不採算エリアの投資をEC方面に回す方向性だと報じられているが、Amazon等の脅威が高まる中、至極妥当な選択だろう(会社としては否定しているようだが)。

ウォルマートが西友の売却を検討 ウォルマートが西友の売却を検討

 長年にわたり伸び悩んだ西友をよくここまで我慢していたというのが素直な感想だ。西友は、最近では国内の競合企業にもあまり脅威とは思われていなかったようだ。既に、カルフール(仏)、テスコ(英)という欧州のグローバルスーパーマーケットも撤退しており、これで、業界には外資系スーパーは日本では通用しないのだ、といった安堵感が広がることだろう。なお、コストコやメトロは会員制卸売に分類されているので別物という認識である。

 このニュースの後、日経MJは「KY西友、客の心読めず(2018年7月16日)」という西友特集を一面で組んだが、ご丁寧に首都圏の代表的ディスカウントスーパー、オーケーストアとナショナルブランド商品の価格比較を行い、「価格はオーケーに軍配」として、安さが売りのはずの西友が実はそうでもない、と報じている。競合企業のコメントでも、「西友は戦いやすい相手だった。価格の競争だけで戦略が立てやすかった」とし、ウォルマートも実は恐れるに足らず、といったトーンだ。2000年代初め、続々と日本に外資系大手小売業が進出した際には、ウォルマートの進出はまさに「黒船襲来」に例えられ、これで国内小売業の再編が一気に進むといった論調が、国内の小売業を震え上がらせていたことを思い出すと、隔世の感がある。

 世界最大手のウォルマートが、なぜ西友でうまくいかなかったのか。一言でいえば、やっぱり日本市場はガラパゴスだから、となるだろう。

 その最大の特殊性は、生鮮食品、特に魚食に関する食習慣の違いである。最近では食の欧米化が進み、魚離れと言われているが、そうはいっても日本のスーパーで生魚や刺身売場のない店はほとんどない。特に刺身の場合、鮮度の問題があり、これまで日本では週に何度もスーパーに買い物に行くという習慣が定着していた。来店頻度の高い消費者は、鮮度の高い生鮮品(青果も肉も)を求めて小刻みに買うため、鮮度要求が厳しい。そのため、日本では生鮮食品の流通加工(最終商品として陳列するためのパック詰め)を、原則当日、売場の奥のスペースで作業するという工程(インストアパック)が一般的だ。

 しかし、本来の欧米式チェーンストアの効率性は、複数の店舗の流通加工を加工センターで集中的に作業すること(センターパック)でコスト低減を図ることにあり、これによって規模の利益を生み出し、その付加価値で競争するというのが普通なのだ。日本でも過去にセンターパック方式は導入されたが、消費者の支持を得られなかった歴史がある。日本ではインストアパック方式でなければ、来店客が実際に減ってしまうが、この方式は各店舗に加工スペースと加工要員が必要で余計なコストがかかる。こうしたガラパゴスでは、ウォルマートの本来の強みは発揮しづらい。

 話を西友に戻そう。今では知らない人も多いと思うが、西武鉄道のオーナーであった堤一族が作った大手流通グループであるセゾングループの基幹企業の総合スーパーだった。かつてのセゾングループといえば、西武百貨店、西友、セゾンカード、パルコ、良品計画(MUJI)、ロフト、ファミリーマートといった隆々たる流通企業を抱えた一大グループだったが、1990年代の金融危機のあおりを受け、2000年初頭の小売大再編期にグループは崩壊、傘下の流通企業はバラバラに売却されていった。西武百貨店とロフトはセブン&アイ・ホールディングス、ファミリーマートは伊藤忠商事、パルコはJフロントリテイリング(大丸、松坂屋)、セゾンカードはみずほフィナンシャルグループ等、良品計画は離脱独立といった具合だ。

 そうした一連の流れの中で、大手スーパーの一角であった西友は、2002年にウォルマートの傘下に入ったが、もともとは西武線沿線の鉄道系スーパーが大きくなったものだった。

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