「原爆Tシャツ」「ナチス帽」で苦境のBTS 全米1位の裏にある“異常”な実態世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2018年11月15日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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一連の騒動は、あまりに非生産的

 もっとも、韓国の人たちが思い出すべきは、AKB48の総合プロデューサーである秋元康氏が韓国でコラボレーションを中止にされた1件である。BTSは、秋元氏が作曲を担当する新曲を11月に日本で発売予定だった。しかし9月16日、秋元氏が関わらない別の曲に差し替えると発表された。

 理由は、アーミーなどBTSファンたちが、秋元氏が過去に「右翼」で「女性差別的」であったとしてコラボ中止を求めたからだ。すでに述べたように、アーミーなしにはBTSの成功はないことから、BTSの所属事務所はコラボを中止した。そんなアーミーらはBTSメンバーが過去の反日言動で日本の音楽番組に出演できなかったことをどう見ているのだろうか。

 とはいえ、一連の騒動は、あまりに非生産的である。

 何ならこの際、秋元氏とBTSが一緒に登場して握手でもしたらどうか。もしくは10月25日に発売した英語の曲でコラボした、有名な日系米国人DJであり音楽家のスティーブ・アオキ氏にも一肌脱いでもらい、秋元氏と組んでBTSとAKBのコラボをしては?

 もちろんそれぞれに契約などがあるため、実現はかなり難しいかもしれないが、それくらい思い切ったことでもやらない限り、この非生産的な衝突が丸く収まることはないだろう。

 とはいえ、BTSにとっても、世界第2の音楽市場である日本を捨てるのは痛手である。ただ今回の件で、若い女性を中心としたファン層以外の多くの日本人を完全に敵に回してしまった。YouTubeなどネットでも彼らの映像を見ることはできるが、テレビ出演をすれば、ファンではない層の人たちに幅広くアピールでき、新規ファンを獲得する絶好の機会になる。それが失われるのは正直つらいはずだ。

 自らまいた種とはいえ、BTSは間違いなく苦境に立たされている。今後、彼らがどう動くのか、動向に注目したい。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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