「才能ある貧乏」と「無能な金持ち」はどちらが成功する? 浮かび上がった不都合な事実世界を読み解くニュース・サロン(1/4 ページ)

» 2018年10月25日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

 最近、米ワシントンポスト紙が全米経済研究所で発表されたある研究を取り上げ、話題になっている。

 その研究は、遺伝子的な見地から、裕福な子供と貧しい子供のうち、どちらがどれくらい学業で成功しているのかを調べたものだ。

 さらに具体的に言うと、遺伝子的に優れた才能を持つ子供とそうでない子供を調査し、その中で裕福な家庭に育った人と貧しい家庭に育った人とを分類して比べることで、大学を卒業する比率にどれほどの差があるのかを数値で示した。それによって、遺伝子的に見て、どういう人たちが大学を出て労働力になっているかについても明らかにしている。

 ちょっと小難しく聞こえるかもしれないが、要するに、この研究が投げかける問いは、シンプルに言うとこういうことになる。「才能のある貧乏」と「才能のない金持ち」は、どちらが結果的に社会で高収入を得るような労働力として成功しそうなのか――。そしてその結果を見ていくと、この遺伝子調査の話が私たちの暮らしや未来にも決して看過できないものであることが見えてくる。

photo 「才能のある貧乏」と「才能のない金持ち」はどちらが成功するのか。遺伝子調査が明らかにした(写真提供:ゲッティイメージズ)

 この研究を行ったのは、米ニューヨーク大学とジョンズ・ホプキンス大学の研究者たち。彼らは、100万人以上のゲノムのデータベースをもとに、学歴などの教育達成度を遺伝子データと組み合わせて点数付けすることで、才能のある遺伝子とそうでない遺伝子を識別した。さらに研究者たちは、定年退職者のゲノムデータも調べ、その退職者らが経てきた学歴や経済的成功などのデータを精査。それらのデータをもとに、子供の才能と、育つ環境の相関関係を調べた。

 そもそも、遺伝子には、「天才になる遺伝子」なるものは存在しないという。つまり、現在のところ、生まれながらにして天才であるということは、遺伝子的には証明できない。

 確かに、才能にあふれた人の子が、先天的に才能に恵まれているというわけではない。近代の天才といえば、アルベルト・アインシュタイン、スティーヴン・ホーキング、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズなど多くの名前が挙がるが、確かに彼らの子孫が彼らと同じような偉業を残しているという話は聞かない。

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