今回明らかにされた研究によって、人間のポテンシャルとしての遺伝的な才能は高くないのにもかかわらず、裕福な家庭に育ったことで、「成功」している人がいるということが示された。何もそれが悪いことだと言っているのではないが、逆を言えば、貧しい家庭に生まれ育ったために、才能のある人たちが「無駄」にされてしまっている可能性がある。
しかもそのように人間の才能を無駄にしてしまうことは、長い目で見れば、人類にとって“死活問題”になるかもしれない。人類が、本当に優れた才能を持つ人を十分に活用できていないということになるからだ。例えば、人類にとって最大の敵と言っていいガンの治療を目指す研究に、本当に優れた頭脳を持つ人間が活用されているのか。また、人間の中でも優秀な頭脳を持った人たちが、現代生活の土台になっている経済活動を活性化させ、向上させるのに生かされているのか。
もしそうでないとすれば、今回の遺伝子データによる研究から、こうした考え方について議論していくことが人類にとって有益になるかもしれない。また遺伝子情報をさらに分析することで、人類としてさらに向上する可能性を見いだそうとする動きがあってもいいのかもしれない。
現在、遺伝子がもたらすポテンシャルを調べる研究は各方面で進められている。今後さらに遺伝子データなどが解析されていくことで、いろいろな価値観が変わっていく可能性もある。可能性を秘めた遺伝子研究がさらに活発になると、どのような世界が広がるのか、興味は尽きない。
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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