小林さんは飼育員の仕事のやり方をガラリと変えた。従来のチーム制を廃し、1人の飼育員が複数の水槽や生物を基本的に1人で担当する「単独制多担当持ち」に移行したのだ。
製造業であるトヨタの多能工を範にしたこの制度。水族館に合っていると小林さんは説明する。なぜなら飼育員は例外なく「生き物の飼育が大好き」で、かなうことならば全ての生き物を自分で飼いたいと思っているからだ。
「自分の分身を作って、全部の仕事を自分でやりたいのが僕たちの本音なのです(笑)。でも、それは不可能。個人宅では購入できないような高価な魚や設備もあります。だから、魚の世話をしてお金をもらえる水族館は夢の職場です。もちろん、魚が大好きだから死なせたくないと誰もが思っています」
ほとんどの飼育員が自宅でも魚や動物を飼っており、それらの命は当然ながら自分が預かっている。自分一人で飼育をすることは飼育員にとっては当たり前のことで、そのほうが彼らの希望にかなっているともいえる。
誤解を恐れずに言えば、小林さんは自分を含めた飼育員の生き物マニア気質を利用して、業務の効率化を図っている。竹島水族館のような「弱小」水族館では、少ない人員できちんと飼育しつつ、企画展をはじめとするさまざまな企画を仕掛けて客にアピールし続ける必要があるのだ。
「自分一人で世話していると、この魚はこういうエサが好き、まだ水槽内では新参者なのでみんなと馴染めていない、などが自然と分かります。それをPOPにしてお客さんに伝えることも僕たちの仕事です」
なお、担当する水槽や生物は時々入れ替わる。自分の仕事をこなしたうえであれば、他の人が担当している水槽を「僕ならばもっとうまく飼えます!」と奪いに行ってもいい。そのため、全ての飼育員が緊張感を持って水族館全体に目を光らせる結果となる。お客から生き物に関する質問をされて「僕の担当じゃないので分かりません」と答える飼育員は竹島水族館にはいない。副館長の戸舘さんも単独制多担当持ちに賛同している。
「チーム制の水族館では、本当は熱帯魚が好きなのに何十年も海亀を担当させられたりするのはざらです。アシカショーをやりたくて水族館に入ったのにひたすらカエルの飼育をしていたら辞めたくなるのは当然でしょう。部門ごとに派閥ができてしまうこともあります」
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