画期的なのは、補助金に頼ることなく、エコカーを選んだ方が金銭的に得だというインセンティブを作り出したことだ。それは前人未踏の偉業だと筆者は言いたい。
さて、今回のプロボックス・ハイブリッドの登場によって、ここ数年世界中で大騒ぎの「電動化」ムーブメントの中でトヨタはこれまで以上に突出する存在になる。
長い目で見ればEV(電気自動車)は大事だが、補助金なしで「EVを買わなきゃ損」という時代は残念ながら当分来ない。内燃機関と平等な税負担を経てそういう状況になるのが一体いつなのかは見当の付けようすらない。
実際にプロボックスに乗ってみてどうだったのか。運転席に収まると、目の前にはボンドカーかと思うような装備がずらりと並ぶ。オイルをまいたり、助手席を打ち出したりはできないが、PCや弁当が置けるテーブルや、大型スマホに対応したホルダー、USBソケットのほかにオプションながらAC100Vのコンセント(1万1880円)まで備わる。シートの間には鞄を収納するスペースがあり、ドリンクホルダーは切り替えでペットボトルだけでなく、1リットルの紙パックも収納できる。バインダーやファイルの収納ポケットは複数箇所に設定されている。
1つ残念なのは、筆者がこれまで絶賛してきた空調のスイッチ類が、ハイブリッドのみ妙な押しボタン式になってしまったことだ。クリックの節度感が見事な3つの物理ダイヤル型スイッチは手探りだけで十分操作でき、全てのクルマの見本にしたいような出来だっただけに、いちいちピクトグラムや数字を見ないと操作できないボタン式への移行は残念でならない。
シートは、何の変哲もないが、着座感は良い方。面白いのはハイブリッドなのにキースターター式である点だ。昨今主流のエンジンスタートボタンがない代わりに古式ゆかしいキーを捻る方式だ。なのにエンジンが始動しない。そりゃハイブリッドなので当たり前と言えば当たり前なのだが、少々勝手が違う。
走り出しのトルクの出方はかつての“ダメハイブリッド”ではなく、最近の好ましいハイブリッドだ。出足のコントロール性だけでなく、市街地で前車に合わせて自然に加減速できる。まさかプロボックスに俊足を期待する人はいないだろうが、床まで踏めばそれなりに速く、かつ速度増加とエンジン音量変化がおおむね同期している。主査がこだわったポイントの1つだそうだが、全体的に自然なものに仕立ててある。
心配な回生ブレーキも、昔のようなことにはなっていない。「全く分からない」と言ったらうそになるが、気付かない人もいるだろうくらいには普通だ。
ステアリングはとても良い。パワステの反力を変に演出していないので不自然さがない。少々軽めではあるが、おおむねリニアで、良い感じに鈍感だ。
一日中走り回る営業車のステアフィールが変にビビッドでは疲労してしまうからこれは正しいセッティングだ。ビジネスパーソンにとって、本番は到着した先での仕事なのだから、運転中に疲労するのは本末転倒だ。
何のもてなし感もない代わりに、安定してずっと弱アンダーなので、遠慮会釈なく走れる。道具として申し分ない。むしろスポーツ性とかプレミアム性を問われないクルマは全部こういう仕立てでいいのではないかとすら思う。
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