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21世紀の現役世代の読者には信じられない話かもしれないが、30年前には世界一の半導体製造企業は日本のNECセミコンダクターズだった。Intelがプロセッサに社運を賭けた理由は、当時Intelの主力製品だった半導体メモリの分野で日本企業との競争に敗れたからだ。
当時のIntelのCEOだったアンドリュー・S・グローブ氏が自著「パラノイアだけが生き残る」でその経緯を詳しく述べている。日本製の半導体メモリがIntel製品より品質が優れていると聞かされた時の反応を、グローブ氏はこう記している。「われわれの最初の反応は『否定すること』だった。そんなことは、あり得ない、と。この種の状況に陥った者なら誰もがするように、我々はその縁起でもないデータを激しく攻撃した。自分たち自身でその報告に間違いがないことを確認して初めて、製品の品質向上に取り組み始めたのである。だが、そのときにはすでに大きく遅れを取っていた」(前掲書より)
Intelは遅れを取り戻すことができず、1985年に半導体メモリから撤退する。その代わり、Intelは当時まだ業界での評価が定まっていなかった新しいカテゴリーの製品──マイクロプロセッサに焦点を移し、92年に半導体市場で売上1位のメーカーとなった。Intelは成功して現在も業界トップの地位にいるが、もしパーソナルコンピュータの台頭という時代の波がなかったなら、Intelは消えていただろう。
ちなみに、Intelを半導体メモリ撤退に追い込んだ日本メーカーはその後市場から消えていった。Intel製メモリに日本製メモリが勝った理由は「値段の割に品質が良かったから」だった。日本メーカーはその後も品質にこだわり続けた。一方で、アジアのメーカーからは程よい品質でより安価なメモリが登場し、品質にこだわり続けた日本製メモリは競争に敗れた。クリステンセン教授の破壊的イノベーション理論そのもののストーリーである。
そして今、Intelが半導体製造技術のレースで遅れを取っている。Intelも生き残りをかけてTSMCを技術で追い抜こうとしているが、結果はまだ分からない。Intel社内の奥まった会議室では、新たな戦略転換が話し合われているかもしれない。
早稲田大学大学院理工学研究科修了。1986年日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社。『日経エレクトロニクス』『日経Javaレビュー』などで記者、編集長の経験を経て、2006年からフリーランスのITジャーナリスト。IT領域全般に興味を持ち、特に革新的なソフトウェアテクノロジー、スタートアップ企業、個人開発者の取材を得意とする。最近はFinTech、ブロックチェーン、暗号通貨、テクノロジーと人権の関係に関心を持つ。
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