マツダが構想する老化と戦うクルマ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
今後ますます増加する高齢者の運転を助ける1つの解として「自動運転」が注目を集めている。しかしながら、マツダは自動運転が高齢者を幸せにするとは考えていないようだ。どういうことだろうか?
「自分で運転」するための自動運転システム
そうした背景を踏まえて、マツダは高齢者が運転している状態をしっかりモニターし、できればバックグランドで黒子のようにこっそりと運転を介助する、あるいは緊急時にもっと積極的に安全性を確保するための「認知」「判断」「操作」のバックアップシステムについて基礎研究を行っている。
大前提として、マツダは老化と戦い、クオリティ・オブ・ライフを高めるための1つの方法として、自動車の運転が有意であると言うのだ。「それぞれの高齢者に合った適度な難度の運転」を提供することで「論理的思考能力」「集中力」「認知機能」の活性化と改善を図れるとマツダは考えている。これは運転の楽しさで心身を活性化し、老いのスピードを緩める取り組みである。
図1を見てほしい。ここには8つに色分けされた区分があり、クルマの運転という行動に対して、縦軸に「挑戦」、横軸に「能力」がとられている。右上にあるフローという言葉は耳慣れないと思うが、これは米国の心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱する理想的な精神状態を言う。「明確な目的に強く集中/熱中し、適度な難易度の目的に対して能力を発揮して制御し、その活動に本質的な価値を見出している」状況のことだ。とりあえず、老化防止を目的とした運転に際して最も理想的な状態だと理解すればいい。
この図では左下にいくほど、心の活性度が落ちて楽しみが減る。逆に、右上にいくほど心の活性度が上がりポジティブな感覚が生まれる。これはつまり成功体験を意味しており、「うまくやれている」「楽しい」という精神状態が保たれるわけだ。子どもが「ブーン、ブーン」とクルマを走らせた気になって楽しむ状態に近い。ちなみにこの「ブーン、ブーン」を英語では「Zoom, Zoom」と言う。
現時点で、マツダのこの取り組みはまだ基礎研究に過ぎないので、クルマとして完成するまでのルートマップがはっきりと描かれているわけではない。ただ、想像できる部分もある。肉体機能の部分的喪失についてはある程度デバイスでカバーできるだろう。この問題の中で特に難しいのは精神の状態だ。高齢者による逆走事故が社会問題になっているように、メンタルな領域をカバーできない限り、バックアップシステムが運転者の操作をどこまでオーバーライド(上書き)すべきかの判断が不可能だからだ。
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