JR北海道が断念した「ハイブリッド車体傾斜システム」に乗るまで死ねるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
JR北海道は鉄道の未来を見据えたチャレンジャーだ。線路と道路を走れるDMVや、GPSを使った斬新な運行システムを研究していた。しかし安全対策への選択と集中によってどちらも頓挫。今度は最新技術の実用化試験車両を廃車するという。JR北海道も心配だが、共倒れになりそうな技術の行方も心配だ。
列車に車体傾斜システムが必要な理由
カントには「停止したときに列車が倒れない限界」を前提として、2つの速度限界がある。「列車が遠心力で外側に投げ出されない」という物理的な限界速度と、「人や物が外側に押しつけられない」という乗り心地面の限界速度だ。
列車が高速で通過できたとしても、乗客が外側の窓や壁に押しつけられたり、外側の人に寄りかかるようでは不快だ。貨物列車の場合は荷崩れを起こしてしまう。荷崩れよりも恐ろしいことに、次のカーブで脱線転覆するかもしれない。だから、車両が走行可能な限界速度より、営業上の走行可能速度は小さくなる。品質的な限界速度、としておこうか。国鉄時代は「乗り心地基準」として、遠心力を0.08Gまでと規定していた。この最大値は特例に近い数値で、実際には在来線で0.04Gに収まるような制限速度としている。
乗り心地を無視すれば列車は曲線を高速で通過できる。それなら乗り心地基準を維持したまま、物理的な限界速度へ近づけられないか。そのためには、乗客や荷物の遠心力を解決すればいい。車体をカーブの内側に傾け、遠心力を下向きの力に振り向ける。ちょうどオートバイや自転車で身体を傾けるような状態にする。そのための仕組みが車体傾斜システムというわけだ。
つまり、車体傾斜システムを採用すると列車の曲線通過速度が上がる、という表現は、「曲線区間の物理的限界速度を超える」という意味ではない。「乗り心地を維持したまま、曲線通過速度の限界に近づく」が正しい。物理的限界速度を高くするには、カントを大きくするしかない。車体傾斜システムを使えばカントを大きくしなくても乗り心地基準速度を上げられる。
ただし、車体傾斜システムを使って速度を上げれば、カーブの外側のレールに対する荷重は大きくなる。カントを変えなくても線路側の強化は必要だ。電車の場合は架線の改良も必要になる。電車が傾くとパンタグラフも大きく傾くから、位置調整が必要だ。
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