中高生をターゲットにした映画『ずっと前から好きでした。』はなぜヒットしたのか(2/4 ページ)
4月23日から公開している映画『ずっと前から好きでした。〜告白実行委員会〜』は、中高生に人気のクリエイターHoneyWorksの楽曲をアニメ映画にしたもの。“中高生に届ける”ことに特化して考えられた本作をヒットさせるために何を意識したのか。アニプレックスの宣伝プロデューサー相川和也さんに聞いた。
深夜アニメファン層よりも、より広いところへ
相川さんはこれまで『心が叫びたがってるんだ。』『四月は君の嘘』などの青春系ヒット作品を担当している。これらの作品のコアターゲット層は深夜アニメが好きな20代から30代。例えば『四月は君の嘘』は少年漫画原作の青春もので、男性が好きになるストーリーや女の子像が描かれている。ターゲット層にどっぷりハマれる要素があり、ビジネスモデルもアニメビジネスで一般的な、パッケージ(DVD、Blu-ray)の売り上げを中心とする作品だ。
一方、同じ青春アニメ映画ではあっても、『ずっ好き』のターゲット層は全く異なる。「女子中高生にとっては、アニメというよりは、西野カナと同じ枠組みに近いと思った」と分析する相川さんにとっても、彼女たちに向けた展開は初チャレンジだった。
「でも、映画の制作発表をしたところ、女子中高生の反響が思っている以上に大きかった。自分が思ったよりも多くの人にリーチするのかもしれない、普段ターゲットとしている深夜アニメファンと規模は同じくらい……むしろより多くの人に届くのかもしれないと感じた」
作品を届けるための”2つの分析”
作品を的確に届けるために行ったのは、ターゲット層の分析。まずはHoneyWorksのアルバムCDの購入者層を調査した。アルバムはこれまでに3枚発売されている。この購入層が、“HoneyWorks作品であれば、お金を絶対に払う人たち”だ。最初に出てきた平均年齢の数字は、なんと30歳。
「平均30歳!? とすごく驚いた。ただ、よく見てみると、購入者の年齢の分布がカクテルグラス型。コアユーザーは最初に感じていた通り15歳から20歳。30代の層がほとんどいなくて、40歳から50歳が増える。つまり、親世代が子どもに頼まれて買っている」
先に展開している公式ノベルの購入者層も、コアユーザー10〜15歳と、その親の年代という結果が出た。こうした数字にも後押しされ、“宣伝を中高生だけに絞る”ことを決めた。
なお、HoneyWorksの音楽はニコニコ動画にアップされているので、アルバム購入者層以外にもファンはいる。そのような層を考えるのに指標にしたのはレンタルの数字だ。「アルバムを買うほどではない、あるいは金額的に買えないけれど、HoneyWorksの音楽は好き」というライト層も、映画なら足を運ぶ可能性がある――この2層をターゲットに分析していった。
分析したのは年齢だけではない。HoneyWorksの中高生ファンはどこに住んでいるのか――地域性についてもリサーチした。しかし、既存のデータではそれが分からない。指標としたのが、“劇場前売券”だ。
お小遣いが少ない中高生にとって、電車賃をかけてわざわざ遠くに前売券を買いに行くことは現実的ではない。生活圏内にある映画館で前売券を買うことが予想されるので、前売券の売り上げが強い地域に、ターゲット層がいる――という具合だ。
『ずっ好き』は全国60館で公開。公開の約半年前、2015年の11月に前売券を発売した。通常、アニメ作品の前売券は、首都圏の大型映画館での売り上げが強い。ところが本作の場合は……。
「確かに首都圏でも売れたが、それ以上に、関東郊外や、ショッピングモールの中に入っている映画館などでよく売れた。そこで気づいた。この映画のターゲット層は、都心に住む中高生よりも、郊外に住む中高生が多いのだと」
関連記事
- TBSラジオ「14年10カ月連続聴取率トップ」強さの理由は──「真面目さ」
89期連続、首都圏個人聴取率で首位の座に立ち続けているTBSラジオ。強さの秘けつをインタビューした。 - ビックリマンは関西気質? イラストレーターが語るキャラ誕生秘話
1985年の「ビックリマンチョコ 悪魔VS天使シリーズ」発売以来、おまけシールのキャラクターは大阪にあるデザイン会社、グリーンハウスが手掛けている。個性的なキャラたちは一体どのように生まれたのだろうか? - ランドセルがじわじわと値上がりしている理由
平均単価は約5万円、中には15万円を超えるランドセルも。数年前から小学生向けランドセルの高価格化が進んでいます。そしてまた、値段が高くても売れているのです。その背景にはどのような消費トレンドがあるのでしょうか。 - アニメ化は必ずしもうれしくない!?――作家とメディアミックスの微妙な関係
小説や漫画がドラマ化やアニメ化されることは、それが広告効果となって知名度が上がったり、売り上げが増えたりするため、一般的には作者にとって良いことだと思われがちだ。しかし、ライトノベル作家の松智洋氏は「必ずしも良いとは限らない」と主張、アニメ化された『迷い猫オーバーラン!』の経験を例にメディアミックスの功罪を語った。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.