「世界最長鉄道トンネル」も開通 憲法でトラック制限するスイスに学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/7 ページ)
私は時々「我が国は物流に関して信念を持ち、思い切った施策を実施すべきだ」と主張している。今回は、国土環境を守るという信念の下で、憲法でトラック輸送増加を禁じたスイスを参考に「信念」や「思い切った施策」について考える。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
2016年6月1日、スイス・アルプスで「ゴッタルド基底トンネル」が開通した。全長57.1キロメートルは、青函トンネルの53.9キロメートルより3.2キロメートル長く、世界最長の鉄道トンネルとなった。チューリッヒ〜ミラノ間を約1時間短縮し、約2時間半で結ぶという。これから約半年間の試運転を実施して、12月11日に定期列車の営業を開始する予定だ。
世界最長のゴッタルド基底トンネルと旧ルートの比較。「基底」は「山の底」という意味。旧ルートはトンネルが短く、なるべく勾配で山岳を超えようとしていた。この図のループ区間のいくつかは3層ループになっている(出典:Wikipedia)
旧ゴッタルドトンネルは山岳路線の中央部分にあり、前後に複数のループ線、ヘアピン曲線勾配がある。「ゴッタルド基底トンネル」は平野部からそのままトンネルに入り、旅客列車は時速250キロメートルで走行できる。トンネルの通過時間はわずか20分だ。
ヨーロッパ各国のメディアは「ゴッタルド基底トンネルが青函トンネルの記録を破って世界1位になった」と報じた。日本のニュースメディアも青函トンネルが2位になったと報じ、ヨーロッパの高速鉄道の話題として扱っていたようだ。確かにヨーロッパ各国は高速鉄道に熱心だ。しかし、ゴッタルド基底トンネルにおいて重要な点は旅客列車の高速化だけではない。
スイス、いや、ヨーロッパにとって、このトンネルの重要性は貨物輸送にある。旅客列車の運行は1日65本を予定しているけれど、貨物列車は最大260本も運行する。旧ルートのように勾配や老朽化線路区間を経由しないため、貨物列車1本あたりの輸送量2000トンから4000トンに増える。
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