ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
「輸送密度が○○人以下の赤字路線」など、赤字ローカル線廃止問題の報道で「輸送密度」という言葉が登場する。この輸送密度という数値の意味は何か。国鉄時代から取りざたされた輸送密度の数値を知ると、現在の赤字ローカル線廃止問題を理解しやすい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
8月30日付の日本経済新聞によると、JR北海道は7線区を選定し、自治体と路線存廃を協議するという。輸送密度500人未満の線区で、近日中にリストを公表する。また、輸送密度が2000人以上の線区はJR北海道が単独で維持する方針とのことだ。
JR北海道は7月29日に“「持続的な交通体系のあり方」について”という文書を発表した。秋までに線区語との存廃方針を決定し沿線自治体に相談したいという趣旨だ。廃止路線についてはバス転換、存続路線についても運行本数削減や駅の廃止などコスト削減を求める方針だ。この時点では線区ごとの存廃の判断を明示しなかった。しかし、自治体側の反応は早く、道や国に対して陳情を始めたり、夕張市のように先手を打って廃止に同意し、バス交通体型への支援を求める動きもあった(関連記事)。
「廃止」と「存続確定」を分ける運命の数字
8月30日の報道は、具体的な線区の存廃について基準を示した。輸送密度500人未満は廃止、2000人以上は単独維持である。線区ごとの輸送密度は「持続的な交通体系のあり方」で発表されている。
廃止方針の線区(2015年度輸送密度500人未満)
宗谷本線(名寄〜稚内)
留萌本線(深川〜留萌)
留萌本線(留萌〜増毛)
札沼線(北海道医療大学〜新十津川)
根室本線(滝川〜富良野)
根室本線(富良野〜新得)
根室本線(釧路〜根室)
石勝線(新夕張〜夕張)
日高本線(苫小牧〜様似)
このうち、留萌本線(留萌〜増毛)は廃止が決定し、12月4日が最終運行日となった。石勝線(新夕張〜夕張)は前述の通り廃止が内定している。近々、JR北海道から正式に廃止届が提出されるはずだ。残り7線区が新たに廃止リスト入りとなった。なお、平成26年度のデータでは釧網本線(東釧路〜網走)が輸送密度466人でリスト入りしていた。平成27年度は500人〜2000人に区分されており、最悪の事態は脱した。
JR北海道単独維持方針の線区(2015年度輸送密度2000人以上)
海峡線(中小国〜木古内)
江差線(木古内〜五稜郭)
函館本線(函館〜長万部)
函館本線(小樽〜札幌)
函館本線(札幌〜岩見沢)
函館本線(岩見沢〜旭川)
室蘭本線(長万部〜東室蘭)
室蘭本線(東室蘭〜苫小牧)
室蘭本線(苫小牧〜沼ノ端)
千歳線(沼ノ端〜白石)
千歳線(南千歳〜新千歳空港)
札沼線(桑園〜北海道医療大学)
石勝線・根室本線(南千歳〜帯広)
根室本線(帯広〜釧路)
このうち、海峡線(中小国〜木古内)は北海道新幹線へ転換済み、江差線(木古内〜五稜郭)は道南いさりび鉄道に転換済みだ。平成26年度のデータでは函館本線(函館〜長万部)、根室本線(帯広〜釧路)は2000人未満だった。平成26年度は2000人以上のリストに入り、JR北海道に見捨てられずに済んだ。このように、500人、2000人の当落線上で揺らぐ路線があるから、JR北海道としても存廃の査定は慎重にならざるを得ない。
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