「列車の動力」革新の時代へ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」2017年新春特別編(3/5 ページ)
2017年3月ダイヤ改正は新幹線開業などの大きなトピックがない。しかし、今後の鉄道の将来を見据えると「蓄電池電車」の本格導入に注目だ。地方の非電化路線から気動車が消える。大都市の鉄道路線から架線が消える。そんな時代へのステップになるだろう。
ディーゼルカーから蓄電池電車の時代へ
蓄電池電車は、文字通り蓄電池(バッテリー)を積んだ電車だ。架線がある区間では従来の電車と同じように走る。架線のない区間に入ると、蓄電池に蓄えた電力でモーターを回す。内燃機関(エンジン)は搭載しないから、架線がない区間では充電しないと走らない。クルマに例えると、日産リーフ、三菱アイミーブのような電気自動車だ。
これに対して、小海線や水戸線などで稼働しているハイブリッド気動車は、内燃機関(エンジン)と蓄電池を搭載する。動力はモーターのみ。内燃機関は発電のみに使う。つまり火力発電所を搭載した電車、クルマに例えると日産ノートe-POWERのようなシステムだ。
トヨタ「プリウス」のようにエンジンとモーターの両方を車輪の回転に使う方式はJR北海道が試作し、約5年間の試験を実施した。新型特急車両で実用化する予定だったけれども、安全施策への「選択と集中」により実現していない。(関連記事)。
JR北海道が施策したハイブリッド方式はプリウスに似ているけれど、ちょっと違う。JR北海道はエンジン駆動が主でモーターを補助的に使う「モーターアシスト型(パラレル方式)」だ。プリウスはモーターを主に使用し、高加速時やバッテリー容量が足りないときにエンジンを使う「エンジンアシスト型(スプリット方式)」となる。
蓄電池電車とハイブリッド気動車の違いは内燃機関の有無だ。長所と短所はクルマと同じ。蓄電池電車はコストが安定した電力のみ使い、排気ガスも出ず、騒音も少ない。しかし、航続距離には限界がある。航続距離を伸ばそうとすれば、大容量の蓄電池が必要だ。蓄電池が増えれば屋根上や床下では収まらず、客室が削られる。重量も増えるから走行性能の限界も低い。
烏山線、男鹿線、若松線は10〜25キロメートルの短距離支線だ。電化路線に直通するという運用も似ている。電化区間で充電し、非電化区間を往復する。現状では蓄電池容量と運行距離のバランスが取れた路線と言える。似たような環境の路線は三角線(25.6キロメートル)、津軽線非電化区間の蟹田〜三厩間(28.8キロメートル)などもある。充電に要する時間は約10分で、この程度なら終点の折り返し時間で収まる。
今後、蓄電池の大容量化、軽量化、小型化が進めば、導入可能路線はさらに増える。JR東日本は八戸線(64.9キロメートル)向けに気動車の公募調達を実施しているけれども、ディーゼルエンジンのみで走る新型気動車はこれが最後かもしれない。
蓄電池電車の仕組み。架線がある区間では架線から供給される電力で走る。架線がない区間では蓄電池の電力で走る。架線がない区間の駅には充電用の架線があり、停車中に充電する(出典:JR東日本秋田支社報道資料)
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