サイバーエージェント社長が実践する「強い組織」の作り方:夏目の「経営者伝」(1/3 ページ)
サイバーエージェント、藤田晋社長の経営哲学に迫る連載。最終回は「組織作り」「マネジメント」を中心にお伝えする。藤田社長が子会社の経営を若手社員に任せる理由とは?
これは「才能」なのだろうか? 藤田氏は起業の経緯をこう語った。
「大学生のときにベンチャー企業でアルバイトしたことがきっかけだったんです。年齢が10歳くらいしか違わない30歳前後の人たちが事業の立ち上げに四苦八苦しているのを見て、僕は『なんて楽しそうなんだ!』と思い、起業を決意しました。逆に、雀荘のバイトにはまって、目標も持たず留年したときは『これほどつらいことはない』と感じていましたね」
彼は起業直後、1週間に110時間以上働くと宣言し、その通りにした。平日は朝9時から深夜2時まで17時間、加えて土日に12時間で合計119時間、というペースだった。
そんな彼に、あえて「起業して大変だったことは?」と聞くと、労働時間ではなく「ビジョンを示しても、みんなが納得してくれないこと」だったと言う。
例えば彼が26歳で上場を果たしたときだ。サイバーエージェントは市場の期待を集め、初値は1株1520万円を記録。株価は時価総額700億円にもなった。しかし……。
「新事業を始めたとき、周囲が理解してくれるまでには多少の年月がかかります。いまなら『藤田が言うなら』と納得してくれる人もいますが、起業直後は実績もなくそんな人は多くありません。しかも新規性が高い事業ばかりだから、親切な知人にはなぜ失敗するのかを論理的に説明され、知人以外にはバカにされます。周囲の説得は基本的に無理です」
株価も下がり、約10分の1にまで下落したときは、投資家に「死んで詫びろ」とまで言われたという。しかし藤田はこう乗り越えた。
「起業するとき、多くの方が『甘くない』と言います。実際に周りにいた起業家の方たちはほとんどいなくなりました。私も少し名が知られるようになったら、ネットにも散々、いつか失敗すると書いてあった。対応策は『耐えきる』、ただそれだけです。でも考えてみればバカにされるだけなんだから、折れたらもったいないじゃないですか。そもそも、何も持っていない人間が『カッコよくやろう』なんて、できるわけがありません」
そんな中、藤田氏が種をまいた事業は次々と実現し、サイバーエージェントは上場後も驚異的なスピードで急成長を遂げていった。結果を出し続けているからこそ、こんな笑い話もさえる。
「今でも自分がどう言われているかは気になりますよ。ネットで書いたことなんか本人が読んでるわけないと思う方もいるでしょう。でも、僕はけっこう読んでます」
強靱なメンタルだ。ちなみに藤田氏は起業直後、プレッシャーに耐えられず会社を売却して社長の座を降りようと考えたこともあったという。しかし彼はある日、楽天の三木谷浩史社長からアドバイスを受けた。その言葉は「経営者はメンタルアスリートだ。外野の声に惑わされることなく、自分の信念を貫けばいい」というものだったという。
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