京王電鉄「京王ライナー」増発に“ちょっと心配”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
京王電鉄が2月22日にダイヤ改正を実施する。注目は同社初の座席指定列車「京王ライナー」の誕生だ。平日、土休日ともに夜間時間帯を中心に運行する。京王電鉄沿線の価値向上に貢献するけれども、ダイヤを見て少し心配になった。どうか杞憂であってほしい。
通勤ライナーの欠点を「増発扱い」で解決
「通勤ライナー」共通の欠点は、座席定員制が裏目に出て、列車当たりの輸送力が下がること。本来、着席客、立ち客合わせて、混雑時は乗車率100%以上になる時間帯で、座席のみ、乗車率50%以下で運行するわけだ。極端に混雑率の低い列車を投入すれば、直後の列車は極端に混雑率が上がる。平均すれば大きな数値の変化はないかもしれない。しかし、混雑率の高さにも限界があるから、全体の輸送量の限界に至るかもしれない。だから通勤ライナーのほとんどは最混雑時間帯を避けて運行されている。
売り上げも下がる。客単価を上げたとしても、従来の運賃の2倍が限度だろう。京王ライナーの座席指定料金は400円。新宿〜京王八王子間の普通運賃は360円、新宿〜橋本間の普通運賃は440円。定期券ならもっと安い。座席指定料金の400円という設定は、これらの区間の「客単価を2倍以上にする」という意図が見える。ただし、客単価を2倍にしたとしても、通勤電車としての乗車率が3分の1になってしまうと、客単価2倍でも売り上げは3分の2だ。つまり、客単価を上げても乗客総数が少なければ機会損失が出る。
京王電鉄としては、通勤ライナーの利点と欠点を分析した上で、車両や指定券販売設備などの投資を決定したはずだ。だから、欠点についてはきちんと対策をした。「増発扱い」だ。報道資料で新宿発平日午後8時台の時刻表を比較してみよう。改正前は特急6本、準特急3本、各駅停車6本で、合計15本だった。改正後は京王ライナー2本、特急4本、準特急5本、各駅停車6本で、合計17本になる。確かに京王ライナーの数と同じ2本分の増発だ。
1時間当たりの列車種別の構成も変化しており、特急が減って準特急が増えた。準特急は特急の停車駅に笹塚と千歳烏山を加えている。笹塚で都営新宿線と乗り継ぐ機会が増えるから、これもよく考えられた構成だ。
既存の列車の置き換えではなく、増発という形で欠点をクリアした。つまり「満員にしなくても、いままでより輸送量も売り上げも増えますよ」である。客単価では満員状態より下がったとしても、増発だから売り上げとしても純増になる。この時間帯の旅客の総量が横ばいだとしても、座席指定料金分の増収になる。
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