残業手当はすぐになくしたほうがいい カルビー・松本会長:「プロ経営者」インタビュー【後編】(2/3 ページ)
日本を代表する「プロ経営者」として、さまざまな経営改革を推進してきたカルビーの松本晃会長兼CEO。働き方改革にまつわる日本企業の問題点について、真っ先に「残業手当」を挙げる。
――カルビーのようなメーカーの場合、工場とオフィスとでは働き方が違うので、制度を変える難しさがあるのでは?
制度を共通化する必要はありません。時間ベースで働くか、成果ベースで働くか、それだけのことです。成果が嫌だったら、工場で働ければいい。そんな当たり前のことを当たり前に説明できないから、くだらない議論になるのです。工場の人たちがバラバラに来たら困るけれど、オフィス勤務の人たちがバラバラに来ても、大して問題ではないです。そもそもオフィスに来なくてもいいと思います。
だいたい会社に何しに来ているのかと思うわけですよ。こんなところに来て何があるのですか。自宅で仕事すればいいじゃないですか。もちろん誰かに会うために外に出掛けることはあるでしょう。けれども、あんな満員電車に乗って、どうして会社に来る必要があるのでしょう? 会社に来たら毎日帰るときに小判1枚くれるなら僕は来ますけどね。
――オフィスという物理的な場所はだんだんなくなっていくのでしょうか?
僕はオフィスはなくなってもいいと思っていますが、完全になくなることはないでしょうね。
オフィスは最も危険な場所であり、快適な場所です。危険というのは、ここにいても何も情報が入ってこないからです。製造現場やスーパーマーケットの売り場を回ったほうがはるかに勉強になります。かたや、夏は涼しく冬は暖かい、こんな快適なところはないです。だから皆そのために集まって、残業だけして帰っていくのです。
けれども、考えてみてください。自宅を快適にするほうがいいか、オフィスを快適にするほうがいいか。家に決まっていますよね。オフィスにかかる経費を減らして、その分を社員に払えばいいと思います。
自宅で仕事するのであれば、朝起きてひげをそらなくてもいいし、ネクタイもしなくていい。満員電車に乗らなくてもいい。その代わり求めてるのは成果だよ、成果出さなかったら何をやっても駄目だよという状況を作ってあげればいいのです。そうすれば、多くの社員は自宅で働いたほうがいいと思うでしょう。与えないと分からないのです。
人間は皆そう。得したら喜ぶし、損したら怒りますよね。だから皆が得になることをしてあげればいいのです。何が最も大事だと思いますか? 給料ですよ。給料をたくさん払うためにはどうしたらいいか。実に簡単で、たくさん稼ぐことと、ろくでもないことにカネを使わないことです。ところが、会社が給料をケチるから、社員は経費を使って仇をとろうとするのです。
日本の働き方改革の本丸は残業手当です。何度も言いますが、残業手当がある限り、社員が欲しがるのは当たり前。だからダラダラと働く。ダラダラしないと残業できませんから。5時間で終わることを10時間、12時間とかけてやる。そのほうが給料が高いからです。日本の生産性が低いのは、そうした制度があるからですよ。
だから制度をなくせばいいわけですが、ここで問題なのは、今まで残業手当として支払っていた分を会社が取り込んで、社員に払わなくなることです。今まで払っている金額は、どんな形でもいいので社員に払ってあげないといけません。生産性を高めて残業代を減らしても、節約した分が会社の利益に上乗せされるといったら、社員は動きません。浮いた分は社員に還元すべきです。
元々、残業手当は工場で働く人のためのものだったわけです。どうしてかと言うと、例えば、1時間仕事すればクルマが1台できます。2時間で2台、3時間で3台。同じ頭数で残業してくれたらもっと多くのクルマが造れるので、会社としても良かったし、残業手当が支払われれば時間給で25%アップ、50%アップするから社員にとっても嬉しいのです。
そういう時代は労働者も雇用する側もWin-Winでしたが、そんなビジネスがどんどんなくなってきて、短時間でも成果を生むようなビジネスが出てきました。長時間働けば必ず収益が出るという時代ではなくなりました。
――時代もビジネスの中身も変わっているのに、古い制度だけが残っているわけですね。
そういった制度や法律は早く壊さないといけません。いつまでそんなことやってるんだと思いますよ。
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