エンタープライズ:インタビュー 2003/10/20 02:25:00 更新


Interview:真のデータグリッドを実現するDB2──「オラクルとの戦いに勝算あり」

日本IBMが11月7日開催の「DB2 Day Autumn 2003」で反撃ののろしを上げる。「Oracle 10gの機能は、既にわれわれがDB2でやってきたことばかり。勝算はある」と意気込む中川氏に話を聞いた。

 11月上旬、日本アイ・ビー・エムは「DB2 Day Autumn 2003」を開催する。12月中旬には日本オラクルが「OracleWorld 2003 Tokyo」を予定している。ますます「仁義なき戦い」がヒートアップしそうだが、日本IBMでインフォメーションマネジメント事業部長を務める中川いち朗氏は、「Oracle 10g対抗? 彼らのグリッドでは顧客の悩みを解決できない。コンセプトが違う」と一蹴する。

 ソフトウェア事業を担当する堀田一芙常務は、この7月、入社以来ずっと営業畑を歩んだ中川氏をDB2製品の事業部長に就任させた。「Oracle 10gの機能は、既にわれわれがDB2でやってきたことばかり。異種混在環境でデータグリッドを実現できるのもDB2だけ。それをきちんと伝えたい。勝算はある」と意気込む中川氏に話を聞いた。

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営業畑一筋らしく「顧客の悩みにこたえたい」と話す中川氏


ZDNet 今年7月にインフォメーションマネジメント事業部長に就任されて3カ月余りが過ぎましたが、いかがですか? 先ずは、バックグラウンドから教えてください。

中川 私は1985年の入社以来、16年間、小売り業界の営業を担当しました。金融や製造と違い、この分野はIBMが決して強くありませんでした。しかし、幸いにして、西友やダイエーを顧客として再び獲得できたり、ファミリーマートやローソンのATMプロジェクトを担当するなど、彼らの新しいビジネスをお手伝いできました。

 2001年から2002年にかけて、米国本社勤務を経験し、昨年10月、ソフトウェア事業のパートナー営業担当として東京に戻りました。ソフトウェア事業を担当する堀田(一芙 常務)は、独立した事業体として、富士通、NTTデータ、NEC、日本ユニシス、CTCといったパートナーを重視する姿勢を打ち出していました。日本IBMといえども、パートナーの1社というわけです。

 また、その一方で彼は、顧客のニーズを理解している人をソフトウェア各製品の統括に当てようと考えていました。それまでのIBMでは、各製品を担当する部門と顧客との間に距離がありました。顧客の悩みを解決する機能をきちんと打ち出せる人でなければならないからです。

顧客が求めている情報統合

ZDNet それでは今、顧客らが抱えている悩みとは何ですか?

中川 企業にはデータベースに格納されていない情報がたくさんあります。彼らは、そうした情報も含め、すべてを統合したいと考えています。われわれは、オラクルと違い、アプリケーションの領域には出ていきませんが、顧客が何を求めているのかを把握し、システムインフラの核となるミドルウェア製品群に反映しています。

 昨年初め、私が米国本社に勤務しているとき、サム・パルミサーノCEOが全社を挙げた構想として「e-ビジネス・オンデマンド」を打ち出しました。顧客が変化に即応できるよう、システムインフラの面から彼らを支援するのがIBMの使命です。

ZDNet e-ビジネス・オンデマンド構想でソフトウェアはどのような役割を担うのですか?

中川 もちろん、ハードウェアやサービスも大切ですが、根幹はミドルウェアになります。パルミサーノもソフトウェアに力を入れていくと話しています。

 顧客のデータセンターには、さまざまなサーバがあり、UNIX、Windows、Linuxといったオペレーティング環境があり、データベースもOracleやDB2があります。つまり、異種混在環境です。このシステムインフラを変化に即応できるものにするには、統合する必要があります。「人」を中心とするフロントエンドの統合にはLotus、ビジネスプロセスの統合にはWebSphere、そして情報の統合はDB2です。データベースを例に挙げれば、これまでデータを格納するツールに過ぎなかったのに対して、さらに重要な役割を担うようになっています。ソフトウェアは、IBMにとって核となる製品群です。

「DB2を一生やる」

ZDNet DB2製品を統括する事業部長としての目標を聞かせてください。

中川 われわれは日本オラクルを追いかける立場です。彼らを見ていると感じるのですが、事業部長を単なるロールとして考えていたのでは負けてしまいます。オラクルはデータベースの会社であり、それがなくなればすべてを失うという真剣さが彼らにあるからです。だから私は、「DB2を一生やる」という気概で取り組もうと決めました。

ZDNet つまり、日本オラクルに追いつき、追い越すのが目標ですか。

中川 われわれは、ワールドワイドで既にDB2がデファクトだと考えています。日本でもそうしたいと思っています。営業時代は、いわゆる「何でも屋」で、それこそOracleもたくさん売りました。かつては、顧客らがデファクトはOracleだと考えていました。「同業他社が採用しているし、シェアもナンバーワンだから」と決めていました。しかし、今や流行で買ってくれる時代ではありません。選択が厳しくなっていて、DB2には追い風です。

ZDNet 11月上旬に「DB2 Day Autumn 2003」を開催しますが、その狙いを教えてください。随分と急な開催という印象があります。Oracle 10gを発表した日本オラクルへの牽制ですか?

中川 7月に事業部長になってから、できるだけ早くやりたかったカンファレンスです。

ZDNet しかし、テーマは「これが本当のデータグリッドだ!」となっています。オラクルを挑発?

中川 われわれは、粛々とDB2をインフォメーションマネジメント製品へと進化させています。昨年のDB2 V8、中堅および小規模事業者向けのDB2 Express、そして今年6月にはデータグリッドを実現する「DB2 Information Integrator V8.1」をリリースし、DB2も方向性やポートフォリオを拡大させています。

 IBMの文化では、競合他社を誹謗することはできません。事実であってもダメなのです。優れた製品を開発していれば……という考え方も根強くあります。しかし、顧客らは、現在配備している製品との比較を望んでいるのです。

 おっしゃるとおり、日本オラクルが国内でもOracle 10gを発表し、「g」はグリッドだと言っています。中堅および小規模事業者向けの機能も盛り込んだと言っています。しかし、それらはDB2が既にやっていることばかりです。これはきちんと伝えていかないといけないと私は考えています。

 オラクルは、RAC(Real Application Clusters)を「堅牢かつ優れたスケーラビリティのソリューション」として浸透させることに成功しました。IBMもDB2の「データグリッド」機能をきちんと伝えたいと思います。

Oracleのグリッドとは違う

ZDNet つまり、DB2 Day Autumn 2003の開催でOracle 10gに対抗していく……。

中川 いいえ、DB2 Day Autumn 2003は決して10g対抗で開催を決めたものではありません。Oracleのグリッドは違います。彼らはすべてをOracleにしなければデータグリッドを実現できません。しかし、企業がすべてを捨ててOracleに統一するでしょうか? ましてや企業や組織の枠を越えて連携するとなると、今ある情報をそのままにして統合する必要があります。Oracle 10gでは企業が抱えている悩みを解決できません。データグリッドのコンセプトが違うのです。

 われわれも、今ある情報をそのままにしてローコストで統合していくIBMのソリューションをうまく提案できませんでした。それをDB2 Day Autumn 2003できちんと伝えたいのです。

ZDNet Oracleに追いつき、追い越す自信がありますか?

中川 先ほど、営業は「何でも屋」だと言いました。つまり、顧客は選択肢を求めているのです。特定の製品を押し付けることはできません。営業が「いい」と言って売れる時代ではありません。勝算はあります。

 IBMがLinuxに投資を行い、コンピテンシーセンターを開設し、性能保証をしているのはIBMのほかのプラットフォームと同じ水準までLinuxを引き上げようという努力です。9月下旬、LinuxWorldカンファレンスで「The DB2 Integrated Cluster Environment」(DB2 ICE)というクラスタソリューションセットを発表しました。eServer xSeriesなどと組み合わせ、ワンストップで、なおかつ性能も保証しようというものです。価格はOracleとDellサーバの組み合わせの半額で、国内では16ノードまでリニアな性能向上を検証しています。

 オラクルは、「DB2は(ディスクを共有しない)シェアードナッシングだから耐障害性に問題がある」と言っていますが、障害時のフェールオーバーも40秒ほどで行われ、Oracleと遜色ありません。DB2 Day Autumn 2003では、16ノードのDB2 ICEを会場に持ち込み、われわれのソリューションをお見せしたいと考えています。

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関連リンク
▼DB2 Day Autumn 2003サイト
▼日本IBM

[聞き手:浅井英二,ITmedia]