セキュリティはMicrosoftの「競争上の優位」?

Microsoftは昨年のパートナー会議で約束したセキュリティの約束をまだ実現できていない。だが今年のパートナー会議の説明を見ると、同社は今のセキュリティ課題を既に過去のものと扱っているかのようだ。(IDG)

» 2004年07月09日 16時58分 公開
[IDG Japan]
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 米Microsoftは来週カナダのトロントで開催される年次カンファレンスWorldwide Partner Conferenceで、セキュリティを「競争上の優位」として売り込んでいく構えだ。しかし同社が昨年宣言したセキュリティ関連の約束はいまだ実現しておらず、来場者を納得させることは難しいかもしれない。

 今年で第2回目を迎える同カンファレンスは7月11〜13日の3日間開催される。パートナー各社によるMicrosoft製品の販売を支援することが目的とされている。

 ルイジアナ州ニューオリンズで開催された昨年のWorldwide Partner Conferenceでは、スティーブ・バルマーCEO(最高経営責任者)が同社が直面しているいくつかのセキュリティ課題を明らかにし、その解決に向けた対策を概説して聴衆から喝采を浴びた(10月15日の記事参照)。

 しかしながら、このとき同氏が交わした約束のほとんどはまだ実行されていない。例えば、パッチの一元管理やパッチ管理ツール「Software Update Services(SUS)」 のアップデートの提供時期について、バルマー氏は今年前半中としたものの、いずれも遅れている。

 さらに同氏は、「Windows XP Service Pack 2(SP2)」のセキュリティ強化機能についても宣伝した。今年前半にリリース予定だったが、これもまた遅れ、現在は7〜9月期中に正式リリースの見通しとなっている(6月15日の記事参照)。

 こうした結果、今年のWorldwide Partner Conferenceに参加する多くのMicrosoftパートナーは、昨年と同じセキュリティ関連の懸念を抱いてトロントに足を運ぶだろうと、Directions on Microsoftのアナリスト、ポール・デグルート氏は指摘する。MicrosoftのInternet Explorer(IE)ブラウザを狙った新たな攻撃が最近発生したこともあり、彼らが抱く不安はむしろ大きくなっているかもしれないという。

 「昨年のWorldwide Partner Conferenceから今年にかけて、十分すぎるほどの(セキュリティ上の)障害が生じた。パートナー各社にとってセキュリティは今後も最も大きな関心事となるだろう。バルマー氏が取り組むと約束した課題はまだ解決されていない」(デグルート氏)

 IDCのリサーチディレクター、マリリン・カー氏もこの意見に同意する。「昨年の問題が解決されていないことから、今年も同じ問題が提起されることが予想される」と同氏。エンドユーザー同様、パートナー各社はMicrosoftに対し、セキュリティパッチの更新管理に関する頭痛の種を減らしてほしいと考えている。

 同カンファレンスの特別セキュリティ分科会では、10の個別セッションが用意されている。ただMicrosoftのWebサイトに掲載されている紹介文を読む限り、同社は現在抱えているセキュリティ課題を既に「過去」のものとして扱っているかのようだ。その中には、「当社が顧客と相互に取り組むに伴い、明らかに、セキュリティは競争上の優位になっている」と記されている。

 バルマー氏の講演はカンファレンス最終日の7月13日に予定されており、Microsoftのセキュリティ事業&テクノロジー部門の責任者、マイク・ナッシュ氏もステージに登場する予定。セキュリティ関連の発表が行われる見込みだが、同社はカンファレンス前にはコメントできないとしている。

 パートナー各社はこのカンファレンスに、Microsoftの戦略についての説明や、同社製品をより販売し易くしてくれる情報を求めてやってくる。基調講演、分科会、実践ラボなどのほか、ほかのパートナーやMicrosoft専門家などとのネットワークを広げるビジネスチャンスの場ともなる。

 Microsoftによれば、今年登録した有料参加者は昨年から約20%増えて5000人を越えた。分科会のセッションには、「販売・マーケティング」「ビジネスリーダーシップ」「アプリケーションプラットフォームにおけるビジネスチャンス」「垂直市場」などがある。

 セキュリティ以外にMicrosoftが抱えている課題は、ユーザーを自社ソフトの最新バージョンにアップグレードさせることだ。Microsoftはソフトのほとんどをパートナー経由で販売しているため、彼らに適切なトレーニングを提供することが重要となる。Worldwide Partner Conferenceでは、「Windows NT 4.0」と「Exchange 5.5」を使っている顧客を新しいバージョンに移行させるためのセッションも複数用意されている。

 デスクトップ製品に関してMicrosoftは、Office 2003とWindows XPの販売本数アップを最優先事項に掲げている。今回のイベントでは、同社が取り組む最新の「デスクトップ導入プロジェクト」と、パートナーがシステムを提供しやすくするデスクトップ管理ツール「Solution Accelerator for Business Desktop Deployment」が取り上げられる。

 さらに同社は、「Software Assuranceの販売を成功させるために……そしてその管理から利益を得る方法」と題されたセッションで、パートナー各社に年間ライセンス契約「Software Assurance」の販売意欲を持たせたい考え。Software Assuranceは当初、料金に見合ったものが提供されないとして一部ユーザーから不評を買った。同プランでは年会費制の3年契約を結び、サポートやアップグレード権などが提供される。 

 今年のパートナーカンファレンスは、Microsoftの「従来の」パートナーと、アプリケーションベンダーGreat PlainsNavisionの買収を通じて引き継いだパートナーを一堂に会した2回目のイベントとなる。両社は、現在Microsoft Business Solutions(MBS)に属している。

 またMicrosoftは、さまざまなパートナープログラムを昨年10月に発表した世界的な「Microsoft Partner Program」に一本化している(10月10日の記事参照)。この新プログラムは1月に開始され、2005年まで段階的に実施される。MBSパートナーは今月からこのプログラムに参加しているが、その移行プロセスは「完全にスムーズ」とは言えない状況だ。

 Directions on Microsoftのデグルート氏はこのパートナープログラムについて「Microsoftは移行段階のまっただ中にいる」と語る。「同社は今回のカンファレンスでパートナー向けのサービスをもう2〜3発表するだろうが、おそらく同社は今、このパートナープログラムを大幅に変えたくない状況にいると思う」

 MBSパートナーの1社であるネバダ州リノのManufacturing Resource Partners(MRP)は、今回のイベントで、新しいパートナー機構についてもっと知りたいと考えている。「新しいMicrosoft Partner Programに対するMBSパートナーの理解を高めることに主眼が置かれることに期待する」とMRPのマネージングディレクター、ダン・アバーナシー氏は話している。

 同氏はまた、MicrosoftがERP(エンタープライズリソースプランニング)製品のマーケティング計画に関する明確な指針を提示してくれることを願っている。「MicrosoftはOSやデスクトップ製品のマーケティングからERP製品をうまく差別化することができていない。当社の見込み顧客の中には、MicrosoftがERPソリューションを持っていることさえ知らない人もいる」(同氏)

 MicrosoftパートナーNortec Communicationsのアンドリュー・グロースCEOがトロントに赴く主な目的は、ネットワーク拡大と、事業開発に関するセッションに参加することだ。

 「事業開発に関する内容がもっとあればいいと思った。遠方に2〜3日出かけられるチャンスがそういつもあるわけではない」とグロース氏。同氏がセッションの講演者をMicrosoft関係者以外にしてほしいと同社に依頼したところ、『Spin Selling』という販売戦略の本を著したニール・ラックハム氏が経営するHuthwaiteのセールスエキスパートが起用されたという。

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