バイオメトリクスIDカード計画、女王演説で発表

英国で提案されているIDカードシステムは、バイオメトリクス情報を格納したカードと、個人情報を格納した国家データベースを連係させる。このカードをすべての国民に義務付ける計画だ。(IDG)

» 2004年11月24日 12時36分 公開
[IDG Japan]
IDG

 バイオメトリクス技術を使ったIDカードを採用するという英国政府のハイテクプランが11月23日、英国議会の開幕に際しての女王演説で発表された。

 エリザベス女王2世は政府が用意した演説原稿を読み上げ、その中で「Identity Cards Bill」など、議会の最新の会期で審議される32の法案に関する計画を発表した。今回の女王演説では、次の総選挙に先だって政府の方針が披露された。労働党政権を率いるトニー・ブレア首相は、2005年5月に総選挙を要求すると各方面で予想されている。

 Identity Card Billは、バイオメトリクス識別情報を組み込みチップに格納し、2010年までに作成される「安全な国家データベース」にリンクするIDカードシステムを提案している。デビッド・ブランケット内相が昨年、このシステムを提案した。

 英国政府は2011〜2012年までに、IDカードをすべての英国住民に義務付ける方向で取り組んでいると、ブラケット氏は23日の女王演説後、BBCの取材に応えて語った。国家データベースにはIDカードを持つ人間すべての個人情報を格納する。この個人情報には氏名、住所、指紋や顔・虹彩スキャンなどのバイオメトリクス情報が含まれる。

 ブランケット氏は、国家データベースはこの計画に「欠かせない部分」であり、いずれは欧州連合(EU)が提案している登録プログラムとリンクすることになると話した。

 EUは、2005年までに非EU国民のビザと移住許可証にバイオメトリクスデータ(指紋や顔の画像)を導入するという条例の草案を作成済みだ。これらのデータは加盟国およびEUのデータベースに格納され、これらのデータベースは「Schengen Information System」上の「Visa Information System」を介してアクセスできるようになる。

 Ovumのアナリスト、グラハム・ティッタリントン氏は、国家データベースがこのシステムの重要な部分であることに同意している。「これは英国政府の提案できわめて独特な部分であり、確実に巨大なものになる。ベルギーやラトビアなど多くの欧州の国はIDカードと情報データベースを持っているが、これらは主に電子サービスへの入口として使われている。それに対して英国の計画は、主に法と秩序に関連している」

 ティッタリントン氏は、最終的にどれだけの情報、あるいはどのような情報がこのデータベースに格納されることになるか、このデータベースへのアクセス権が誰に与えられるかすらもはっきりしていないと注意を促している。「データベースに格納する情報、それを利用できる人物に制限をかける必要がある。『ファンクション・クリープ』(特定の目的のためのツールがほかの目的にも利用されるようになること)は既に問題になりつつある」

 ブランケット氏は繰り返し、バイオメトリクスIDカードはなりすまし、不法就労者、不法移民、テロ、National Health Systemなどの政府プログラムの不正利用に対抗する強力な武器だと賞賛してきた。女王は演説の中でその見方に同意した。

 女王は次のように語った。「わが国の政府は、国際テロや組織犯罪の脅威が高まる中、われわれが世界的な不安の時代に生きていることを認識している。それに対処する機会を拡大する措置には、全国民のセキュリティを高める法律が付いてくることになる。政府はIDカードシステムの導入を法制化し、英国や他国におけるテロとの継続的な戦いを支援する提案を公表する予定だ」

 まず来年には顔スキャンによるバイオメトリクス識別情報がパスポートに導入され、それからIDカード計画の「基盤を構築」し、「クリーンなデータベース」を作成するとブランケット氏は説明した。

 だが多くのセキュリティ専門家は、このような巨大なデータベースでミスが起こらないことがあるだろうかと疑問を投げかけている。「本質的に、これだけ大きなデータベースは真にクリーンにはならないだろう。データ入力の点だけでも、入力されるデータの正確さをどうやって保証するというのか」とOvumのティッタリントン氏。

 同氏は、英国警察の犯罪データベースで、年を経るごとに徐々に不正確な点が増えてきたことを指摘する。「これは政府が提案している国家データベースよりもずっと小規模なデータベースで、最高レベルの認可を得た捜査当局の職員しかアクセスできない。IDカードデータベースをハッカーやテロリストから守ることはもちろん、正規のアクセスをどうやって制御するのだろうか」

 Identity Cards Billが法制化された場合、英パスポートサービスの機能を取り込んだ新しい政府機関が2008年からIDカードの発行を開始する。

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ