第3回 日本にも広がるオフショア委託寄稿

インドのTATA Consultancy Servicesにオフショア開発の市場動向について寄稿してもらう。第3回は日本におけるオフショア開発の現状と問題点、今後の展望を紹介してもらう。

» 2005年03月23日 14時07分 公開
[TATA Consultancy Services]

 ユーザー企業からのコスト引き下げ要請に対応すべく、日本の大手システムインテグレーターを中心に委託先選別の強化やオフショア開発への動きが活発化しており、日本のITサービス業界は国境を越えた大競争時代に突入しているとも言える。一方で、団塊世代のIT技術者が一斉に退職する、いわゆる2007年問題や、高度IT人材不足の深刻化なども、オフショア委託に拍車をかける国内要因となりつつある。

日本におけるオフショア開発の現状

 JISA(社団法人 情報サービス産業協会)の調査によると、2003年の時点で、回答のあった会員企業179社のうち、オフショア委託を活用している企業は18%弱であったが、3年後には約半数の企業がオフショア委託を計画していると回答している。

 日本の場合、海外の委託先は圧倒的に中国が多い。次いでインド、韓国、ベトナムの順だ(図2参照)。しかし今後は、中国とインドが日本のオフショア委託先として人気を二分するといった声も聞かれる。

図2 オフショア開発の委託先別割合(複数回答可:JISA「事業者アンケート調査」2003年8月)

日本におけるオフショア活用の問題点

 数年前から、日本でも中国(特に大連市)へのソフトウェア開発委託がかなり顕著になっている。既に製造分野での中国やASEANでのオフショアモデルは充分定着し、成功している。漢字文化圏、日本語人材の多さ、地理的近さから、中国に親近感を感じる日本の企業も多い。

 しかし、ソフトウェア開発分野での中国への委託は苦戦する例が多く報告されている。中国への委託に伴うリスクとして、企業文化や開発環境の違い、言葉や習慣の違いによって意思疎通が困難であること、品質やコスト管理の難しさ、納期の遅れ、要員の定着率の低さ、機密保持や知的所有権の軽視などの問題が挙げられている。

 曖昧な仕様や口頭での打ち合わせなどの「暗黙知」による委託方法ではオフショア委託ではリスクを増す要因となってしまうが、要求定義を明確にすれば、バクや修正コストの増加をかなり抑制できる。成功への第一歩はまず委託企業側の要求内容の明確化することと言える。

 また、委託企業とITベンダーの間の円滑な意思伝達・交渉を可能にするシステムエンジニア(ブリッジSE)の役割もカギになる。また委託企業側でも、海外ITベンダーのプロジェクトを管理・運営し、交渉・調整力に長けた総合力をもった人材の存在が成否に影響力をもつ。

増加するインドへのオフショア開発

 日本語やコミュニケーションの問題から、インドより中国の方が組みやすいと考える企業も多いだろう。また中国国内市場への参入を目指すユーザー企業の場合は、中国ITベンダーを活用することもいろいろな意味でメリットがあることも事実だ。

 一方で、欧米企業からのオフショア委託では、インドのオフショアベンダーの方が一日の長がある。中国だけでなく、文字通りのグローバル展開を目指す日本企業にとってはインドのオフショアベンダーを活用するメリットは大きい。実際、米国の日系子会社の場合、インドへの委託は数を増やしている。日本企業からの業務の委託を積み重ねる過程で、インド側ベンダーも日本の企業文化やビジネス慣習への学習を深めており、コミュニケーションの問題も大幅に改善されてきている。

 最近、日本の金融や製造業などのユーザー系ITベンダーによるTCS本社(ムンバイ)への訪問が非常に増えてきている。JETRO(日本貿易振興機構)の調査によると、インドでのオフショア開発を強化している日本企業も増えているようだ。

 ソニーはインドをグループ全体の有力なソフト開発拠点としている。京セラはインドを米国に次ぐ携帯電話用ソフトウェア開発の中核拠点と位置づけている。NECは最先端のIT技術の習得を目的として同社の日本人の新人研修をインドで行っている。また東芝、キヤノン、シャープなども、インドを一つの重要な開発拠点として位置づけはじめた。日本IBMは、日本のユーザー企業から受注した開発業務をインドへ委託して競争力を一層強化している。

 国際競争圧力と国内のIT人材の不足という深刻な問題を背景に、文化・価値観の違いやコミュニケーションの限界といった若干のリスクはあるものの、オフショア委託は日本にも確実に浸透してきている。

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