目指すはセキュリティ人材不足の解消、カーネギーメロン大学日本校が開校

米Carnegie Melon大学が兵庫県と協力して設立されるカーネギーメロン大学日本校、CyLab Japanの開校記念式典が行われた。

» 2005年06月08日 08時53分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 6月7日、カーネギーメロン大学日本校、CyLab Japanの開校記念式典が行われた。同校は、米Carnegie Melon大学が兵庫県と協力して設立するもので、9月より授業が開始される予定だ。

 カーネギーメロン大学日本校の特徴は、情報セキュリティの教育に特化していること。それも、情報セキュリティ技術だけでなく、マネジメントやポリシーといった要素も踏まえたカリキュラムを組んでいくことが特徴だ。

 兵庫県知事で財団法人ひょうご情報教育機構の会長、井戸敏三氏は、開校に至った背景を「情報社会の到来にもかかわらず、情報セキュリティを担う人材が余りにも少ない」と指摘。また兵庫県副知事の藤本和弘氏も、「ITは社会や経済に欠かすことのできない基盤となっており、それだけに対策が不可欠。しかしそのための人材、とりわけマネジメント能力を備えた高度な人材は不足している」と指摘。CyLab Japanを通してその不足している人材を育成していきたいとした。

 また、開学記念講演の中で、東京大学国際・産学協同研究センター教授の安田浩氏は、個人情報の管理や認証といったセキュリティ技術上の課題に加え、情報セキュリティ教育が非常に少ない点が問題だと指摘した。

 「まず教科書がないし、教える先生もいない。教えることについて教員側のインセンティブも問題だし、受講者側も教育を受けて何かいいことがあるのかという部分も課題。となると、国家認定資格のようなものが必要ではないか」(同氏)。インターネットを「安心・安全」にする上でも、CyLab Japanによる人材育成には期待したいと述べた。

マネジメントも含んだ教育

 米Carnegie Melon大学は、コンピュータエンジニアリング/サイエンスの分野で指折りの大学だ。セキュリティ分野の活動としては、モーリスワームの発生を機に設置され、脆弱性情報の収集、解析やベンダーとの調整を行うCERT/CCが有名だ。現在CERT/CCは、米国土安全保障省との協力の下、US-CERTに改組されている。

 同大学は国外での活動にも積極的で、カタールのドーハに分校を設立したほか、アテネに情報ネットワーク分野の教育機関を設置。また韓国では研究を目的としたCyLabを設立している。しかし、情報セキュリティに特化し、かつ教育活動を念頭に置いた教育機関設立は、今回の日本校が初めてという。

 CyLab Japanでの講義内容には、日本独自のカリキュラムも組み入れられるが、授業は基本的に英語で行われ、教材もCarnegie Melonと同様のものが用いられる。また授業の一部は、リアルタイムのビデオ会議システムや電子ホワイトボードを用い、本校とつないだ形で行われるという。

 定員は1学年20名程度で、履修期間は1年4カ月。卒業者には、MSIT-IS(Master of Science in Information Technology -Information Security)の学位が与えられる。

 米Carnegie Melon大学のデナ・サミティス氏によれば、同大では情報セキュリティのプロフェッショナルを対象とした教育に加え、エンドユーザー、特に子供向けに情報セキュリティリテラシーの向上を図るカリキュラムを展開するほか、企業のCSO/CISOに特化した教育プログラムも提供している。同様のプログラムを日本でも近い将来展開していければという。

サミティス氏 変化に強い人材を育てたいとしたサミティス氏

 「特に情報セキュリティの分野では環境は変化し、どんどん新しい要素が登場する。そのように変化する環境に対応できる力をつけてもらうことにフォーカスしたい」(サミティス氏)。モバイル機器のセキュリティ対策やバイオメトリクスといった、日本が強みを持つ分野でのコラボレーションにも期待したいとした。

 また、同校教授の武田圭史氏は記念講演の中で、アドホックネットワークにおけるセキュリティの確保やカーナビ、ハードディスクレコーダーといった組み込み機器のセキュリティ、セキュリティとプライバシーの両立といった今後の課題に加え、今現在の課題として「セキュリティマネジメントの改善が必要」と言う。

 武田氏は、特に日本の組織の場合、「インシデントハンドリングに関するスキルが未成熟」だと指摘。同校が提供するMSIT-ISのカリキュラムが、一連のマネジメントを支援し、さまざまなリスクの最小化を図る上で手助けになればとした。

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