BeOSの後継OSが舐める辛酸、これはスーツとギークの局地戦か?(2/2 ページ)

» 2006年02月13日 16時04分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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 しかし実際はそうではない。実は2005年9月末の時点で、分割払いに両社が合意すると同時に、契約解除も行っている。yellowTABは代金の支払いの可能性を確保しつつ、新たな販売店を探そうと考えたのだろう。

 実際yellowTABは、契約解除後ほどなくぷらっとホームに対しそれを伝え、製品を「再度」yellowTABから直接仕入れることができることを明確にしている。ここで再度と書いたのは、2004年から2005年7月まで、ぷらっとホームはyellowTABから直接製品を仕入れていたから。2005年7月から9月末までの間は、日本総代理店となったBerry経由でぷらっとホームは仕入れを行っているが、そもそもこの仕入れの発注交渉はBerryが総代理店になる前からyellowTABが交渉していたものをBerryに引き渡したことで成立したものである。その意味では元に戻ったと言うべきだろう。

 大きな問題は、なぜ契約解除から数カ月経ってから発表したかということだ。この点についてコーツ氏は次のように語る。

 「幾つか理由がある。まず、2005年9月末の時点でBerryが分割払いに同意したので、契約違反を修正、つまり、支払い義務を果たすまで待っていたため(結果としてまだ支払われていないが)。また、日本での今後の体制を再構築してから、ユーザーに公表することでネガティブイメージを最小限にとどめたかった」

 前者の理由はともかく、後者については同情を禁じ得ない。当然支払われると思っていたBerryからの支払いがなかったことで、日本市場に向けた開発やサポートといった部分に割り当てようと考えていた資金のあてがなくなったことはyellowTABにとって大きな痛手となったことは容易に想像できる。

 一方、yellowTABのリリースからはBerryがなぜこうした行為を取ったのかが見えてこない。この点についてBerryの関係者は、当初見せられたものと、実際の製品レベルが著しく異なることがyellowTABに対する不信へとつながったと話す。おそらくこれは、日本語環境の充実であったり、デバイスドライバ周りの開発についてであろう。確かにZETAは、徐々に改善されているとはいえ、ハードウェアサポートがかなり貧弱であると言わざるを得ない。

 しかし、こうした部分の実装が必ずしも当初の予定通りに進まなかったことなどを理由に支払いを行わないのは、私に言わせれば詭弁である。

 ソフトウェア開発で仕様や実装の優先度が変わることは珍しくない。もしある機能の実装をリクエストするのであれば、市場データや販売予測などを基にその必要性を裏付けた上で行う必要があるだろう。それが日本市場に固有のものであるなら、なおさらだ。しかしBerryはそこまでしていないように思われる。また、契約には最低限の販売ノルマも年間売り上げの設定も存在していないが、同時に特定の機能を特定の期間で開発するという内容も含まれていない。そうした内容の契約書にサインしているにもかかわらず、その部分にケチをつけるかのような行為はどうなのだろうか。これはBerryの見通しの甘さ、もしくは落ち度といってもいいだろう。そもそも、β版にもアクセスできたはずのBerryは総代理店になる前からZETAはどんな製品で、その完成度はどの程度かといったことまで、十分に知っていたことは間違いない。市場に送り出すには問題がある部分があるのなら、総代理店としてそこはしっかりと契約書に織り込んでおくべきではないか。

 Berry関係者は、「(yellowTAB)は、Berryを“日本支社”のように考えていたのではないか」と話す。確かに総代理店はyellowTABの日本支社とは位置づけが大きく違う。しかし、開発面でどの程度BerryがZETAに貢献したかを考えると、ZETA 1.0の日本語化はそのほとんどの作業がyellowTABにJPBE.netというユーザーグループが協力することで行われたものである。

 現時点でZETAを購入しようと思うと、PC-CRAFTやぷらっとホームなどで購入できる。yellowTABとしては今回新たに正規代理店となったぷらっとホームのオンラインショップから購入することを推奨している。正規代理店だからという理由もあるが、実際にはPC-CRAFTに対する不信感もあるようだ。

 PC-CRAFTを経営する鈴木淳氏は、ZETA用の日本語入力システムを開発、販売するなど、BeOSやZETAをよく知る人物である。同氏はBerryの技術室長も務めているというが、そんな同氏が未払いの事実を知らないはずがない。にもかかわらず、同社からZETAの仕入れを続けていたことは私から見ても倫理的にあまり賛同できるものではない。「推奨」という言葉には、PC-CRAFTに対する不信感が凝縮されているようにも見える。とはいえ、「ユーザーは自分の判断で製品を購入することが望ましい」とし、購入先を問わずサポートは行うと明言しているyellowTABの姿勢は大いに評価したい。

 yellowTABのコーツ氏は今回の選択は苦渋の決断だったと語る。

 「Berryとの契約を解除したことで、短期的に見れば日本のユーザーに大変なご迷惑をかける結果になったことは認識している。しかし、今回の決断は、長期的に日本のユーザーに良いサービスを提供するためはやむを得ないものだと考えている。

 現在、日本の既存のZETAユーザーや将来のユーザーをどうサポートするかを検討しており、間もなくこれに関連する発表ができると思う。直近では、日本のZETAユーザー向けに日本語でのWebページを近日中に公開したい。

 yellowTABとしてはこの問題を一日も早く乗り越え、われわれが本来取り組むべきこと、つまり、ZETAをもっと魅力的なOSに進化させ、ユーザーに喜んでもらうための作業に注力していきたい」

 yellowTABは、今回の件の損害賠償を求める予定について「いずれの法的なオプションも放棄はしないが、オープンに話せる状況ではない」としている。一方Berryは、この件については一切コメントしない姿勢を貫いている。SunとStarSuite 8およびSolaris 10 のOEM契約を締結するなど、別のビジネスを進めているだけに、この件について今後何らかのアクションを起こす可能性はきわめて低い。そもそもBerryは自社製のLinuxディストリビューションも持つため、ZETAに対する“本気度”は当初からそれほど高くなかったのかもしれない。いずれにせよ、今後はこの事件は表に出ることなく進行していくのだろう。

 BeOSの正統な後継である「ZETA」。今回の一件は決してOS自体の問題ではない。苦難を乗り越え、今後も継続してすばらしいOSに進化していくことを強く期待したい。

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